『走れメロス』太宰治/新潮文庫2020-11-20

2020-11-20 當山日出夫(とうやまひでお)

走れメロス

太宰治.『走れメロス』(新潮文庫).新潮社.1967(2005.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100606/

続きである。
やまもも書斎記 2020年11月19日
『お伽草紙』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/19/9318056

この巻に収録の作品は次のとおり。

「ダス・ゲマイネ」
「満願」
「富岳百景」
「女生徒」
「駆込み訴え」
「走れメロス」
「東京八景」
「帰去来」
「故郷」

「走れメロス」を読むのは、何十年ぶりになるだろうか。この歳になってよみかえしてみると、その小説としての巧みさが、わかるようになる。おそらく太宰の作品のなかでは、三人称視点で書かれた作品として、数少ないうちにはいるのかもしれない。

それにしても、これほど直接的なテーマの作品は、もう誰にも書けないだろう。この「走れメロス」においてきわまっているといっていいのかもしれない。そして、それは、今になって読んでも面白い。

「富岳百景」は読んだ記憶がある。かなり若いときのことである。「富士には月見草が……」の有名な台詞は、いったいなんで覚えただろうか。たしか、この作品を読む前に知っていて、小説を読んで確認して、なんだかつまらなかった印象をいだいたのを覚えている。

しかし、今になって読みかえしてみると、実によくまとまっている小品であると感じる。太宰の作品で、これまで読んできたものには、あまり叙情性というものを感じなかったのであるが、この作品には、どことなく叙情性を感じる。

「帰去来」「故郷」などの作品。太宰の故郷への思いをつづっている。新潮文庫版で若いときに、この本を読んでいたのであったならば、当然、これも読んでいるはずなのだが……「走れメロス」や「富岳百景」は、読んだのを覚えている……どうも記憶にない。だが、この文庫本のなかでは、この二作が印象に残る。太宰の故郷への思い、家族への思いが、淡々とした筆致でつづられている。デカダンスの文学といわれる太宰であるが、このような作品も書いていたのかと、認識をあらたにするところがある。

2020年11月14日記

追記 2020-11-21
この続きは、
やまもも書斎記 2020年11月21日
『津軽』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/21/9318674