『ヴィヨンの妻」太宰治/新潮文庫2020-11-30

2020-11-30 當山日出夫(とうやまひでお)

ヴィヨンの妻

太宰治.『ヴィヨンの妻』(新潮文庫).新潮社.1950(2009)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100603/

続きである。
やまもも書斎記 2020年11月28日
『パンドラの匣』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/28/9321130

収録作品は、

「親友交歓」
「トカトントン」
「父」
「母」
「ヴィヨンの妻」
「おさん」
「家庭の幸福」
「桜桃」

書誌を書いてみて、この文庫本が最初に世にでたのは、昭和二五年であることが確認できた。太宰治の死後、まもなくの刊行である。解説を書いているのは、亀井勝一郎。その解説を読むと、太宰の作品を、現代文学といっている。もう太宰治の死から、数十年以上経過している。今日の観点からは、太宰治を現代の作家とはもはやいえないかもしれない。

ところで、この『ヴィヨンの妻』には、太宰治の晩年の作品を収録してあることになる。いずれも、戦後になって書かれたものである。これまで、主に戦前、戦中の作品を読んできた目で見るならば、やはりここにきて、作者の変貌を感じる。いったいどこがどう変わったのかと問われると困ってしまうのだが、確かに作品が変わってきている。

このあたり、太宰治にとって、戦争とはなんであったか、戦後の太宰治は、どのような変化を見せることになったのか、近代文学研究の動向にうとい私としては、なんともいえない。

だが、たしかに、戦後になって太宰は変化を見せていることは感じるのである。いわゆる「無頼派」の作家というカテゴリーに入れられることになるであろう、作者の人間観、人生観というようなものを、読みながら思う。良き人間であろうとしながらも、現実にはなかなかそうままならない心中の葛藤とでもいっていいだろうか。

そして、相変わらずたくみな語り口である。しかし、その語り口も、変化を感じる。語り手に没入した感じではなく、どことなく距離をおいているとでもいうことができるだろうか。

この文庫に収録されているのが「桜桃」。太宰治の命日は、桜桃忌である。

2020年11月27日記

追記 2020-12-03
この続きは、
やまもも書斎記 2020年12月3日
『グッド・バイ』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/12/03/9322892