『斜陽』太宰治/新潮文庫2020-12-04

2020-12-04 當山日出夫(とうやまひでお)

斜陽

太宰治.『斜陽』(新潮文庫).新潮社.1950(2003.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100602/

続きである。
やまもも書斎記 2020年12月3日
『グッド・バイ』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/12/03/9322892

その作品の冒頭のひとつのことばを明瞭に記憶している小説である……「あ」、というお母さまのことばは、昔、若いときに読んで、強く印象に残っている。しかし、その後、どんなストーリーが展開したかは、今となっては、すっかり忘れてしまっていた。

「戦後」という時代の中にあって、落ちるところまで落ちるしかない、そんな覚悟というか、あるいは、あきらめというか、どうしようもない気分を、この作品は見事に描いている。これは、『グッド・バイ』を読んだときにも、感じたことであるが、おそらく当時の読者にとっては、この『斜陽』という作品を読むことによって、今、自分たちの生きている「戦後」という時代を再認識することになったのだろうと思う。文学とは、そういうものである。

現実が先にあるのではない。文学がそれを描くことによって、現実が改めて認識のうえにのぼってくるのである。文学によって気づくといってもいいかもしれない。この意味において、『斜陽』は、きわめてすぐれた戦後文学である。

そして、同時に、文学としての普遍性を獲得している。何もかも失って自暴自棄なるか、ただあきらめてほろんでいくことになるのか、ひとそれぞれだろうが、世の中のおおきな流れのなかで落魄していくしかない身の上というのは、いつの時代にもそれなりに存在するものだろう。この落魄、喪失の観念を、『斜陽』は描ききっている。

私が、太宰治の作品のなかから何か一冊を選べといわれれば、たぶん、『斜陽』を選ぶことになると思う。

2020年11月30日記

追記 2020-12-05
この続きは、
やまもも書斎記 2020年12月5日
『人間失格』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/12/05/9323539