二〇二〇年に読んだ本のことなど2020-12-31

2020-12-31 當山日出夫(とうやまひでお)

今年(二〇二〇)に読んだ本のことなど思いつくままに書いておきたい。

今年、まず読んでみたのが、宮尾登美子であった。『櫂』をふと読みなおしてみたくなって読んだ。それから順に自伝的作品をはじめとして、主な作品を読んだ。これほど人びとの日常生活の情感、人間の喜怒哀楽、生老病死にまつわる思いなどを、細やかに描いている作家は、希かもしれない。宮尾登美子については、読もうと思って買って、まだ手にしていない作品がいくつか残っている。これらについては、来年になって読むつもりでいる。

『復活』(トルストイ、藤沼貴訳、岩波文庫)を読んだ。『復活』を読んだら、カチューシャの唄を思い出してしまう。その流れで、『放浪記』(林芙美子)など読みなおしてみた。トルストイの作品では、『戦争と平和』(藤沼貴訳、岩波文庫、全六冊)も読むことができた。これは、以前に、新潮文庫版で読んだことがある。そして、今は、光文社古典新訳文庫版が刊行中である。これは、順番に買っている。全巻そろったら、まとめて読もうと思っている。

日本の古典では、『太平記』(岩波文庫版)を読んだ。『太平記』は、若いころに日本古典文学大系版で手にしたことはあるのだが、最初から通読するのは始めてになる。底本をいい本をつかっている。だが、岩波文庫につくるということで、国語学的に見て興味があるところについて、その本文校訂については、若干の不満があるというのが、正直なところである。が、ここは、もう老後の読書である。そのようなことはあまり気にせずに、ただページをめくっていく読みかたで読むことにした。『太平記』については、他に、古典集成や、新編日本古典文学全集のテキストもある。これらの本でも、読んでおきたいと思う。

『風と共に去りぬ』(岩波文庫版)も再読してみた。この作品については、旧版新潮文庫、新版新潮文庫、岩波文庫と読んでいる。このうち、岩波文庫版について、再読しておきたくなって読むことにした。やはり、この作品は、ある時代の人びとの世界を活写していると強く感じる。

今年読んだ本のなかで、一番印象に残っている本は、『文学こそ最高の教養である』(光文社新書)である。ここに取り上げられている本について、全部読んでみようと思って、だいたい順に読んでみた。このうち『失われた時を求めて』については、岩波文庫、集英社文庫で、すでに読んでいる。この光文社古典新訳文庫版でも、既刊分については、読んでおくことにした。『文学こそ最高の教養である』は、光文社古典新訳文庫を基本に、古今東西の「古典」を解説してある。すぐれた文学論、古典論であり、また、翻訳論になっている。このようなことを思い立っていなければ、読まずにすましてしまったような作品が多い。時には、このような読書の方針もあっていいと思う。

新潮文庫で読める範囲に限定して、現在刊行されている本を読んでみようと思った。芥川龍之介を読み、森鷗外を読んだ。芥川龍之介も、森鷗外も、その岩波版の全集は持っているのだが、全集に手を出すのが億劫になってきたということもある。現在でも刊行されている範囲の文庫本に限って読むというのも、一つの考えかと思っている。

太宰治も、新潮文庫版を全部読んだ。その代表作の主なものは、若いときに手にしたことがあるのだが、改めて、ほぼ発表年代順に読んでみた。太宰治は、新潮文庫で、その小説のほとんどを読むことができる。特に、その中期といわれる時期……ほぼ戦争中になるのだが……に書かれた作品に、文学的にすぐれた作品がある。いまだに太宰治が読み継がれている理由が分かったかと思う。

ともあれ、この二〇二〇という年は、COVID-19の年として歴史に残るであろう。いや、来年もどうなるか、まったく予断を許さないのだが。大学の授業は、前期はオンラインということになった。外に出ることが基本的になくなった。学会、研究会なども、ほぼ中止か、オンライン開催であった。結果的には、居職の生活となった一年である。どれほど本が読めたか、ふりかえってみれば、思い残すところもある。来年もつづけて、本を読む生活をおくりたいと思っている。

2020年12月30日記