『飼う人』柳美里2021-01-18

2021-01-18 當山日出夫(とうやまひでお)

飼う人

柳美里.『飼う人』(文春文庫).文藝春秋.2021(文藝春秋.2017)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167916268

昨年の暮れに柳美里の『JR上野駅公園口』を読んだ。そのつづきで、柳美里の小説を読んでみようと思って手にした。

やまもも書斎記 2020年12月26日
『JR上野駅公園口』柳美里
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/12/26/9330511

本のタイトルは「飼う人」である。何を飼っているかというと、「イボタガ」「ウーパールーパー」「イエアメガエル」「ツマグロヒョウモン」とまあ、いわゆるペットとしてはなじみのないものばかりである。そして、なぜ、このような生きものを飼うことなったのか、そのいきさつは様々であるが、しかし、そこのところについての描写はほとんどないといってよい。ただ、結果として、これらの短篇作品に出てくる主人公の人物は、その生きものを「飼う」ことになる。

これを読んで感じるところとしては、「飼う」という行為のもつ意味である。生きものを「飼う」とは、本当はいったい何なのであろうか。何故ひとは生きものを「飼う」のか。そこには、自らが生きていることへの、確認とでもいうべき感覚を感じる。生きものは「他者」である。それを「飼う」ことは、その生命のすべてを引き受けることに他ならない。そして、その他者の生命を背負うことによって、自分自身の生命をそこに再帰的に確認することになる。私は、この作品を読んで「飼う」ことの意味をそのように感じる。

それから、この作品のなかで、特に印象に残るのが「イエアメガエル」である。東日本大震災、そして、原発事故……これをめぐっては、多くの文学が書かれ、これからも書かれていくことだと思うが、そのなかで、柳美里の「イエアメガエル」は、特筆すべき作品として残るものであるかと思う。原発事故の汚染地域に暮らす普通の人びと、その生活感覚をとらえる文学的想像力に、読んでいて思わずに、読みふけっていることになる。ああ、こういう生活感覚で生きている人びとがいるのか、いわゆる報道やジャーナリズムでは伝えることのできない、心のうごきとでもいうべきものを、この小説は見事に描き出していると思う。

柳美里は、名前は知っていたが、これまで手にすることがなくすごしてきた作家である。つづけて、柳美里の作品で文庫本、古本で、手に入るものを読んでいってみようかと思っている。

2021年1月16日記