『藤原定家『明月記』の世界』村井康彦2021-01-22

2021-01-22 當山日出夫(とうやまひでお)

藤原定家『明月記』の世界

村井康彦.『藤原定家『明月記』の世界』(岩波新書).岩波書店.2020
https://www.iwanami.co.jp/book/b530020.html

藤原定家という人物については、国語史、日本語史というような分野で勉強をしていると、かならずどこかで目にすることがある。その残した日記である『明月記』は、あまりにも有名であるといってもよい。

若いとき、ある目的……毎日の天候の記述の調査……のために、『明月記』は、全部のページを繰ったことがある。その当時の本は、国書刊行会本である。その後、古書店でみつけて、三冊を買ってもっている。しかし、そう手にすることなく今にいたっている。

国語史、日本語史の分野からいうならば、次の二つの点で『明月記』は貴重である。

第一に、定家は多くの平安朝の古典籍……和歌集や物語など……を書写、校訂している。なかでも、『源氏物語』については、今でも定家本を主につかうのが、この分野の主流であるといってよい。その定家の古典の校訂、書写についての記述を、『明月記』に見ることができる。また、歌人としての姿をそこから読みとることも必須である。

第二に、平安から中世にかけての、公家の日記としての『明月記』がある。いわゆる「変体漢文」である。その言語的な資料として、『明月記』の文章そのものが、研究対象になる。

以上の二点から、『明月記』は、重要な資料ということになる。

今では、冷泉家の時雨亭文庫の叢書のひとつとして、新しいテキストが刊行されている。(残念ながら、これは持っていない。)

以前、京都文化博物館で、冷泉家の展覧会があったとき、『明月記』も展示されていたのを見たことを覚えている。

このような『明月記』について、あるいは、藤原定家という人物について、いったいどんな人物で、どんなことが『明月記』には書いてあるのか……このあたりを、分かりやすくひもといてくれている本である。この本を読んで、なるほど藤原定家という人物は、このような人生をおくった人間であったのか、と認識を新たにするところが、少なからずあった。この意味では、国語史、日本語史のみならず、国文学、日本文学の勉強、さらには、日本史の勉強をこころざす、特に若い人にとっては、必読の本であるといってよいであろう。

2021年1月20日記