『ラスプーチンが来た』山田風太郎2021-05-20

2021-05-20 當山日出夫(とうやまひでお)

ラスプーチンが来た

山田風太郎.『ラスプーチンが来た』(ちくま文庫 山田風太郎明治小説全集11).筑摩書房.1997(文藝春秋.1984)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480033512/

続きである。
やまもも書斎記 2021年5月13日
『明治波濤歌』(下)山田風太郎
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/13/9377026

これは読んだ記憶がある。若いときのことである。たしか、ラスプーチンという名前は、この本で覚えたのではなかったろうか。

これまで読んできた山田風太郎の明治小説は、虚実がいりまじっている。架空の登場人物もいれば、そのなかに実在の人物が出てきて、おもわず驚くという趣向になっていることが多い。この作品も、多くの実在の人物が登場するのだが、中に仮名となっている人物がいる。下田歌子である。これはどうしてなのかなと思って読むのだが、解説(津野海太郎)によって、なんとなく事情が察せられる。

主人公といっていいのは、明石元二郎。後年、日露戦争のときには、日本のスパイとして活躍することになる。その若いときの姿として登場する。他には、乃木希典や、長谷川辰之助(二葉亭四迷)も出てくる。

事件のクライマックスというべきは、大津事件。ロシア皇太子襲撃事件である。その顛末をめぐって、波瀾万丈の大活劇が東京を舞台にくりひろげられる。

ところで、ラスプーチンであるが、最近、この人物の映像をテレビで見た。「映像の世紀」(NHK)で登場していた。ただ、それが確かにラスプーチンであるという確証は無いとのことであったが。

この小説で描いているのは、明治という時代に生きた「化物」である。その代表が、日本にやってくることになったラスプーチンということになる(無論、このあたりのことは、山田風太郎のフィクションである)。そして、それ以外に、多くの「化物」が登場する。たとえば、内村鑑三、児島惟謙なども、山田風太郎の目で見るならば、明治という時代の「化物」ということになる。

史実をふまえながらも、荒唐無稽であり、同時に、透徹した歴史観を感じる。山田風太郎の明治小説の傑作といっていいだろう。ただ、この本は、今は品切れのようである。ちくま文庫以外の文庫版も出ていないようだ。ちょっと惜しい気がする。

この本を読んだら、二葉亭四迷の『あひびき』を読んでみたくなった。これも、若いときに読んだはずの作品である。

2021年5月8日記

追記 2021-05-27
この続きは、
やまもも書斎記 2021年5月27日
『明治バベルの塔』山田風太郎
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/27/9381702