映像の世紀(9)「ベトナムの衝撃」2021-05-28

2021-05-28 當山日出夫(とうやまひでお)

映像の世紀(9)「ベトナムの衝撃~アメリカ社会が揺らぎ始めた~」

前回は、
やまもも書斎記 2021年5月21日
映像の世紀(8)「恐怖の中の平和」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/21/9379679

ベトナム戦争からは、私の記憶のうちにあるできごとになる。見ていていろいろ思うことはある。番組は、どちらかというとアメリカに批判的な立場で作られている。これはこれで、一つの立場である。

だが、今の目からふりかえってみるならば、ベトナム戦争というのは、もっと複雑な要因があると思えてならない。番組であえて触れていないことが、むしろ逆に気になる。

第一には、ベトナム戦争もまた、東西冷戦の代理戦争の様相を持っていたことである。北ベトナムをひきいた人物として、ホー・チ・ミンが登場していた。だが、実際の国際情勢のなかでは、さらにその背後には、ソ連があり中国があり、共産主義大国の影があったはずである。このことに番組はまったく触れていなかった。

第二には、これは今になって感じることでもあるが、ベトナム戦争は、ベトナムのナショナリズムの戦いでもあった。古来より中国の影響下にあり、フランスの植民地となり、独立をはたすことになるのだが、そこに東西両陣営の思惑がからんでくる。結果として、東西冷戦の代理戦争の修羅場になってしまった。しかし、その根底には、ベトナムの民族の自立への強い意志があったことになる。

第三には、日本のことがまったく出てきていない。ベトナム戦争当時、日本は、アメリカ軍にとって、後方支援基地の役割をになっていた。ベトナムへの出兵に、在日米軍基地の存在を抜きに語ることはできない。そして、日本においても、反ベトナム戦争の運動があった。

以上のようなことを思ってみるのだが、しかし、番組としては、これはこれで、アメリカという国の歴史のある時代の出来事をうまく描いていたかと感じるところがある。ベトナム戦争と、公民権運動、そして、若者たちの反体制的な動き。ただ、番組では、麻薬のことや、性的な放縦さについては、ことさら触れることがなかったが。

そして、今はどうだろうか。ベトナム戦争は、アメリカ社会に対立と分断をもたらしたのかもしれない。キング牧師の理想は、未だに達成されたとはいいがたいように思える。

余計なことかもしれないが、たぶん、アメリカは、ベトナム戦争の敗北を徹底的に研究したにちがいない。正規軍の大部隊がなぜゲリラに負けたのか。その教訓は、おそらく、イラクなどでのアメリカ軍の行動に反映するものとして、蓄積されているのだろう。番組は、一九九五年の放送である。まだ、二〇〇一年の同時多発テロ事件をきっかけにして、アメリカがイラクなどに本格的に戦闘を開始する前のことになる。

軍事史の専門家は、ベトナム戦争をどのように見ることになるのか、ふと興味をいだいたということがある。

2021年5月26日記

追記 2021年6月4日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年6月4日
映像の世紀(10)「民族の悲劇果てしなく」
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/06/04/9384367

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