「黄色い下宿人」山田風太郎2021-06-03

2021-06-03 當山日出夫(とうやまひでお)

明治十手架(下)

山田風太郎.「黄色い下宿人」(ちくま文庫 山田風太郎明治小説全集 14 『明治十手架』所収).1997
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480033543/

続きである。
やまもも書斎記 2021年5月31日
『明治十手架』山田風太郎
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/31/9382962

ちくま文庫本に掲載の書誌を見ると、初出は、1953年の『別冊宝石』(岩谷書店)である。その後、いろんな作品集に収録されている。たぶん、私が読んだのは、1977年の現代教養文庫版であったかと思う。(この現代教養文庫は、いまではもうない。)

おそらく、私が最初に読んだ山田風太郎の作品は、これだったかと思う。(あるいは、「不戦日記」の方だったかもしれないが、どうだろうか。)

読みなおして見ることになったのだが、四〇年以上のへだたたりがある。ああ、こんな小説だったのかと改めて思い、そして、これは、ミステリとして一級の作品でもあると、改めて納得したところでもある。

記憶に残っていたのは、一九世紀のロンドンに留学していた日本人……これも、ここまでの山田風太郎の明治小説を読んできた人間ならすぐにわかる、夏目金之助である。この意味では、この作品は、山田風太郎の明治小説の中にいれていいようなものかもしれないが、しかし、発表時期を考えるとどうかなという気もしないではない。山田風太郎の明治小説は、やはり『警視庁草紙』あたりかた考えるべきだろう。

筑摩書房がこの企画で「全集」を出版したとき、収録作品の一覧を見て、この作品もそういわれてみれば、明治小説ではある……と、思ったのを覚えている。

そして、この作品は、(これはすっかり忘れてしまっていたことなのだが)ホームズが登場する。たしかに、英国に留学していた夏目金之助が、シャーロック・ホームズと会っていても不思議ではない。無論、山田風太郎の明治小説の設定ということにおいてだが。

ともあれ、これを読んで、筑摩版の山田風太郎の明治小説を、全部読み切ったことになる。そのほとんどは、再読、再々読……になる。ここで、あらためて、集中的にこの一連の作品を読んで感じることは、近代、明治維新を描いた作品群として、やはり傑出していることである。

山田風太郎は、(特に気をつけて読んだということではないのだが)明治維新という用語は使っていなかったと思う。御一新であり、あるいは、瓦解である。このあたりの用語にうかがえるように、山田風太郎は、明治という時代を、その時代の流れにのることをいさぎよしとしなかったものの立場から描くという視点をとっている。いわば、敗者から見た明治ということになる。

このような視点で明治維新を見るというのは、「不戦日記」の著者ならではのことでもある。昨日まで、世の中こぞって尊皇攘夷といっていたのに、大政奉還から一気に流れが変わって、開国、文明開化ということになる。これは、まさに、太平洋戦争の戦時中から、戦後にかけての、世の中の変化になぞらえて見ることになるのだろう。いったい何が正義なのか、昨日まで信じていたことは意味がないことなのか、新しければそれでいいのか……時代の激変のなかで、価値観が動転した世の中の動き、そのなかに生きてきた人間ならではの、歴史や社会への、どことなく冷めた眼差しを感じる。

小川洋子の作品を読んでいっていたのだが、ふと途中で目について、山風太郎の明治小説を読み出して、「全集」所収作品を全部読むことになった。後、山田風太郎で、昔読んで、再読してみたいと思っているのは、「八犬伝」と「不戦日記」になる。これも、つづけて読んでみようと思う。

2021年5月27日記

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