『原節子の真実』石井妙子2021-07-19

2021-07-19 當山日出夫(とうやまひでお)

原節子の真実

石井妙子.『原節子の真実』(新潮文庫).新潮社.2019 (2016.新潮社)
https://www.shinchosha.co.jp/book/340011/

原節子の映画を映画館で見たのはどれくらいあるだろうか。はっきりと覚えているのは、『我が青春に悔いなし』(黒澤明監督)は、見たのを覚えている。小津安二郎監督の映画のいくつかも、映画館で見た記憶はあるのだが……私の学生のころ、小津安二郎の映画は、場末、もう今ではこんなことばは使わないが、しかし、このようないい方しか思い浮かばない、で上映されていたものである……はっきりと原節子と意識して見たという記憶はない。

原節子の名前を意識するようになったのは、近年になって小津安二郎の作品が再評価されるようになってからのことである。それまで、日本の女優の……特に美人の……一人という認識でいたかと思う。ただ、一般的な知識としては、いつの間にか日本の映画界から姿を消して隠棲してしまった、謎の多い女優ということは思っていたかと思う。

「女優」のことばをつかって書いてみたが、近年では、このことばは、あまりつかわないことばになってしまっている。女性であっても、俳優というのが、ちかごろのならわしである。だが、原節子については、私は、女優と書いておきたい気がしてならない。女優として仕事をし、生きて、そして、「原節子」という女優を残して、この世を去ったのが、まさしく原節子だろうと思う。

この原節子を、テレビで見ることがあった。小津安二郎の映画の放送もあるのだが、そうではなく、NHKの「映像の世紀」のシリーズにおいてである。そこでは、原節子は、戦前の日本とドイツとの合作のプロパガンダ映画の主演である。また、戦時中は、真珠湾攻撃を描いた『ハワイ・マレー沖海戦』にも出演している。これらのことは、テレビを見ていて知った。

この本『原節子の真実』のことは、知ってはいたが、今まで手にとることなく過ぎてしまっていた。ふと思って、手にしてみた。なるほど、原節子とはどのような人生をあゆんだ人間なのか、得心がいったというところであろうか。まさに、小津安二郎の映画に登場する女性のイメージである。(だが、実生活において、煙草をすいながら酒を飲んでいたというのは、ちょっとそぐわない気がしないでもないのだが。)

石坂洋次郎は『青い山脈』を書くにあたって、原節子をイメージして書いたという。さもありなんと思う。新しい時代の女性というイメージが確かにある。が、その一方では、小津安二郎作品などでは、逆に古風な価値観の女性を演じてもいる。

今は、時間のあるときは、本を読むようにしている。読めるときに読んでおきたいと思う。そして、時間があれば、外に出て、草花の写真をとっている。が、これも、本を読むのに倦むときがくるかもしれない。そのときはどうしようか。DVDで、映画でも見ようかと思う。若いときに、そのいくつかを見たことのある、小津安二郎の作品でも、じっくりと振り返って見てみたい気がする。

しかし、原節子自身は、小津安二郎監督作品については、自分の代表作ではないと思っていたとのことである。原節子の生きてきた「原節子」は、ついに演じきられることな終わってしまったということなのかもしれない。

また、この本は、原節子という女性の生き方をたどることによって、日本の映画史の一面を描いた作品にもなっている。これはこれとして、興味深いところが多々ある。

2021年7月13日記

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