『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ2021-07-22

2021-07-22 當山日出夫(とうやまひでお)

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ブレイディみかこ.『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫).新潮社.2021 (新潮社.2019)
https://www.shinchosha.co.jp/book/352681/

話題になっている本と思ってはいたが、なんとなく手を出さずにいた。文庫本になったのをきっかけに読んでみることにした。なるほど、この本がベストセラーになるのは、理解できる。

著者は、いわゆる日本人であるが、英国で結婚して、そこで働いて子育てをしている。その現地の生活の視点……強いていえば労働者階級ということになるが……から、英国の社会の様々な問題を描き出している。

読んで思うことは、次の二点ぐらいであろうか。

第一は、読み物として面白いことである。

とにかく、読んで面白い。これにつきる。著者の夫婦は、その子どもを、地域の、元底辺中学校に通わせることになる。そこでおこる様々なできごとが綴られるのだが、なるほどいろいろと大変なことがあるよなあ、と共感して読んでしまう。無論、日本と英国と、国情がおおいに異なる。同じものさしではかることはできないのだが、しかし、子育ての苦労、そして、中学にはいり自立していく子どもの姿、これがどことなくユーモアのある筆致で描かれている。これが、読み物として非常に面白い。

第二は、さまざまに考えることの多い本であること。

PC(ポリティカルコレクトネス)というが、どの社会環境において、どのような価値観が、PCであるかは、多様性がある。社会の多様性を重視するといっても、では具体的にどうすればいいのか、その状況によって判断していかなければならない。

そこで重要になることとして、著者は、「エンパシー」……シンパシーではなく……といっている。異なる立場の身になって考えてみること。端的に、これを、「他人の靴をはいてみる」こと……といっている。

日本において考えるPCと、英国ロンドンの労働者階級のなかで考えることになるPCでは、おおいに違う。だが、そこに共通していえることは、自分は何者であるかの認識と、自分とは異なる人びと……ジェンダー、人種、国籍、社会的階層、文化など……への、「他人の靴をはいてみる」という配慮である。

これは、おそらくは、今の日本において、あるいは、これからの日本において、きわめて重要な視点になることである。

以上の二点のことを、思ったことして書いてみる。

この本が文庫本になって多くの人びとに読まれるようになるのは、よろこばしいことといっていいだろう。

2021年7月16日記

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