『見知らぬ人』エリー・グリフィス ― 2021-07-30
2021-07-30 當山日出夫(とうやまひでお)
エリー・グリフィス.上條ひろみ(訳).『見知らぬ人』(創元推理文庫).東京創元社.2021
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488170035
文庫本の帯には、「この犯人は見抜けない」とある。これはそのとおりである。古典的なフーダニットの作品である。だが、いったい誰が犯人か……読んでみて、あまり意外性は感じなかった。また、理詰めで、犯人を探索していくというタイプの作品でもない。
私が、この作品を読んで感じるのは、特に英国ミステリがもっている、文学的重厚さとでもいうべきものである。古典的なミステリの枠組みでありながら、同時に、ビクトリア朝のことが、色濃く投影されている。むろん、シェークスピアなどからの引用に満ちてもいる。
一方で、現代の小説ということで、社会における多様性の尊重ということが、作品の重要なモチーフにもなっている。
このような作品を読むと、英国という社会の、あるいは、少なくともミステリという文学のもっている、歴史と文学的厚みというものを、強く感じることになる。これは、残念ながら、あまり現代日本のミステリには感じられないものでもある。(強いていえば、北村薫ぐらいの名前が思い浮かぶが、しかし、ゴシックロマンという傾向の作家でない。)
ミステリというよりも、現代英国における、小説、文学の面白さを感じさせる作品である。(さて、これが今年のミステリベストにはいるかどうか、ちょっと微妙なところかなと思ったりもする。)
2021年7月27日記
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488170035
文庫本の帯には、「この犯人は見抜けない」とある。これはそのとおりである。古典的なフーダニットの作品である。だが、いったい誰が犯人か……読んでみて、あまり意外性は感じなかった。また、理詰めで、犯人を探索していくというタイプの作品でもない。
私が、この作品を読んで感じるのは、特に英国ミステリがもっている、文学的重厚さとでもいうべきものである。古典的なミステリの枠組みでありながら、同時に、ビクトリア朝のことが、色濃く投影されている。むろん、シェークスピアなどからの引用に満ちてもいる。
一方で、現代の小説ということで、社会における多様性の尊重ということが、作品の重要なモチーフにもなっている。
このような作品を読むと、英国という社会の、あるいは、少なくともミステリという文学のもっている、歴史と文学的厚みというものを、強く感じることになる。これは、残念ながら、あまり現代日本のミステリには感じられないものでもある。(強いていえば、北村薫ぐらいの名前が思い浮かぶが、しかし、ゴシックロマンという傾向の作家でない。)
ミステリというよりも、現代英国における、小説、文学の面白さを感じさせる作品である。(さて、これが今年のミステリベストにはいるかどうか、ちょっと微妙なところかなと思ったりもする。)
2021年7月27日記
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