映像の世紀プレミアム(20)「中国 “革命”の血と涙」2021-08-16

2021-08-16 當山日出夫(とうやまひでお)

映像の世紀プレミアム 20 中国 “革命”の血と涙

一四日の夜の放送。録画しておいて、翌日の朝に見た。

NHKが「映像の世紀」「新・映像の世紀」と再放送してきたのを見て思ったことがいくつかある。そのなかの一つに、中国のことがある。「映像の世紀」「新・映像の世紀」では、ほとんど中国のことが描かれていなかった。ベトナム戦争のことを描いても、その背景にある中国の存在、また、ベトナムと中国との争いのことも無かった。

「映像の世紀プレミアム」が、ここにきて中国をとりあげるというので、これは是非見ておきたいと思った。

描いていたのは、概ね辛亥革命から天安門事件まで。これはこれで、一つの中国近代史をなぞった描き方であると思う。特に、中国共産党の成立から、蒋介石との確執を経て、共産党一党支配を確立するプロセス。そして、その後の、毛沢東による文化大革命の顛末。(毛沢東を礼賛するサルトルの声が興味深かった。)

やはり気になっていたのは、天安門事件をどのように描くかということである。今でも、中国においては、天安門事件は、タブー視される出来事である。そこにどこまで踏み込んだことを語るか、興味があった。

たぶん、今のNHKとしては、できる限り天安門事件に迫ったというところであろうか。中で興味深かったのは、有名な、戦車の前に立つ男性の映像。これまで、天安門事件といえば必ず出てきた映像である。これについて、批判的に語っていた。どうやらこの映像は、謎につつまれているようだ。何故、男性は軍が支配しているはずの天安門に現れたのか、何故、戦車は強引に男性を排除することをしなかったのか。その後、男性はどこに行ったのか。そもそも、その男性の正体はいったい誰なのか。

映像は、確かに説得力がある。だからこそ、そこに史料批判の目が必要になる。プロパガンダ映像は、その目で、検討することになる。(これは、そうと分かって見るならば、プロパガンダ映像であっても、逆の観点から史料になりうるということでもある。)

これまで見てきた「映像の世紀」「新・映像の世紀」「映像の世紀プレミアム」のなかで、史料批判の視点を、もっとも感じさせる編集になっていたと思う。

また、何よりも気になったのは、どこで終わりにするか、である。近年の問題である、新疆ウイグル自治区の問題に言及することがあるのか、気にはなった。ここは、天安門事件までということで、線を引いた編集になっていた。

しかし、だからといって、中国共産党の一党支配を全面的に肯定した編集にはなっていない。そこにある歴史的な大きな問題点を、巨視的に見るということになっていたかと思う。一党支配は、いずれ終焉を迎えるときがくるだろう。それは、人びとの意識と動きによって、容易にくつがえりうるものかもしれない。かつての、文化大革命のときがそうであったように、中国の人びとのエネルギーは巨大である。

番組を見ていて、出てこなかったこととして思ったことは……外国との関係がある。日中戦争はふれることがあったが、そう踏み込んだものではなかった。当時の中国における、西欧列強諸国の権益の問題が重要であるとは思うのだが。ソ連とのことは、少し出てきていたが、それ以外の外国とのことはほとんど出てきていない。モンゴルとの関係も、また、ベトナムとの関係も無かった。北朝鮮も登場しなかった。インドとのことも出てこなかった。また、香港のことについては、一切ふれることが無かった。台湾のことも、あつかっていない。

少数民族として登場していたのは、せいぜいチベットが少し出ていただけである。中国共産党一党支配は、国内的には少数民族への圧政という側面もある(その一つが、現在の新疆ウイグル自治区の問題でもある。)

天安門事件もまた、その時代の世界の潮流のなかでおこるべくして起こったできごとといえるだろうか。この意味では、世界の巨大なうごきのなかで、これからの中国も考えていかねばならないことになる。(これからのWEBの時代、中国は、どこまで情報鎖国的政策をつづけることが可能だろうか。)

編集の方針としては、中国共産党の一党支配と、そのもとにあった人びと……これはいわゆる「中国人」といっていいのだろうが……このあたりのことが中心であったかと思う。昨今の中国情勢のなかにあって、よく作ったという印象があると同時に、やはり、何かしらの物足りなさを感じずにいられなかった。

とはいえ、いわゆるチャイナドレスが、実はモダンな装いであったことなど、いろいろ興味深いものであったことは確かである。たまたま今読んでいる本……『天国でまた会おう』……で、第一世界大戦後のフランスで働く中国人労働者が出てくる。フランス語が読めないという設定。これは、その当時、中国からフランスに売られた苦力としてよいのかとも思う。

2021年8月15日記