『約束された移動』小川洋子2021-11-15

2021-11-15 當山日出夫(とうやまひでお)

約束された移動

小川洋子.『約束された移動』.河出書房新社.2019
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028361/

続きである。
やまもも書斎記 2011年11月11日
『小箱』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/11/11/9439278

これで、今、普通に手に入る範囲での小川洋子の小説は、だいたい読んだことになるだろうかと思っている。残りとしては、エッセイなどがあるが、これはまた別に考えて読むことにしようかと思う。

今年になって、ふと思いたって、小川洋子の作品を読み始めた。文庫本で気楽に読めそうなものからと思って、適当に見つくろって読んできた。(途中、山田風太郎の明治小説を読んでいた時期があったので、ちょっと中断してしまったのだが。)

この『約束された移動』は短篇集。次の作品をおさめる。

約束された移動
ダイアナとバーバラ
元迷子係の黒目
寄生
黒子羊はどこへ
巨人の挨拶

どれを読んでも、小川洋子の作品である。このなかで、私として印象に残っているのは、「寄生」だろうか。

小川洋子の作品は、「ささやき」である。大声でなにかを叫ぶというていのものではない。天下国家を論じるというものでもない。世の中のかたすみに生きている、それもちょっと変わった人、その心のうちの「ささやき」に、ひそかに耳をかたむける。そのささやかな声をなんとか聞き取ろうとする。

そして、一方で、どことなくユーモアがある。この短篇集では「寄生」がそうであるといっていいだろう。ユーモアといっても、声に出して笑うようなおかしさではない。読みながら、ふと微笑んでしまうような、おかしさ。このような場合、その小説のなかの当事者は、いたって生真面目である。それだけに、透明感のある小川洋子の文章でそれが描き出されるとき、どことなくユーモラスになってしまう。これも、小川洋子の作品の魅力の一つだろう。

小川洋子の次に誰を読むことにするか、読みそびれて積んである本を片づけて、ちょっと考えることにしたい。

2021年7月6日記