『人間の絆』(下)サマセット・モーム/金原瑞人(訳)/新潮文庫2022-01-06

2022年1月6日 當山日出夫(とうやまひでお)

人間の絆(下)

サマセット・モーム.金原瑞人(訳).『人間の絆』(下)(新潮文庫).新潮社.2021
https://www.shinchosha.co.jp/book/213031/

続きである。
やまもも書斎記 2022年1月4日
『人間の絆』(上)サマセット・モーム/金原瑞人(訳)/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2022/01/04/9453316

上巻につづけて下巻を読んだ。途中、ちょっと中断して読んだことになるのだが、すんなりと最後まで読んだ。

やはりモームは、短編作家だと思う。これは長編小説という形になっているのだが、フィリップをとりまく人物が入れ替わり立ち替わり登場しては消えていく。その登場人物たちとフィリップのかかわりは、それぞれに短編小説的な面白さがある。

全編にわたって登場してフィリップの人生とかかわる人間は、そう多くない。が、なかで魅力的なのは、上巻の終わりの方で登場してきた女性、ミルドレッドである。強いていえば、悪女ということになるのかもしれないが、どことなく憎めない魅力がある。

この小説の時代設定は、概ね一九世紀の終わりごろということなのだろう。ちょっと風俗的、歴史的に、今の日本で読んでわかりにくいところがないではない。特に、医者になろうとする主人公については、昔の英国の医者とはそのようなものだったのかと思って読むしかない。

そして、上下巻を読み終わって感じることであるが、この小説の主人公のフィリップは、どうもあまりいい人というわけではない。このことについては、文庫本の解説でも語られている。悪い人間ということではないのだが、決して善良な好人物という人物造形にはなっていない。

しかし、そのような登場人物を、怜悧な人間観察の目で描き出している作者の手腕は確かなものがある。

2021年12月8日記