『日独伊三国同盟』大木毅2022-02-28

2022年2月28日 當山日出夫(とうやまひでお)

日独伊三国同盟

大木毅.『日独伊三国同盟-「根拠なき確信」と「無責任」の果てに-』(角川新書).角川書店.2021
https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000663/

この本のもとは、二〇一〇年にPHP新書として刊行された『亡国の本質-日本はなぜ敗戦必至の戦争に突入したのか-』を、改題し加筆したものである。(もとの本は残念ながら読んでいない。)

読んで思うことはいくらもあるが、二つばかり書いておく。

第一には、昭和戦前の政治史、外交史として、非常によく書けている本であることである。もとがPHP新書ということもあるのだろうが、比較的読みやすい文体になっている。(これは近年の『独ソ戦』などの文章とはちょっと違っている。)

なんと無責任な政治家、軍人たちであったことか、と思わざるをえない。これは、一つには歴史の結果として、太平洋戦争の敗北ということを知っている視点からのものであることは承知していても、それでもなお戦前の政治家、軍人たちの、無定見にはあきれるとしかいいようがない。

特に誰ということはないが、日独伊三国同盟に深くかかわったということでは、大島浩、松岡洋右などが、名前がうかぶところである。それから近衛文麿も、無責任な政治家ということになるだろうか。

希望的観測による独断……それを象徴するのが「バスに乗りおくれるな」ということばになるのかもしれない。

歴史の中で、ポイント・オブ・ノー・リターンを求めるとして、日独伊三国同盟という視点から、戦前の政治史、外交史を概観してある。確かに、結果としては、ドイツ(あるいはヒトラー)と組んだことは、日本の大きな失敗であったということになる。が、それを推進した人間がいたということ(大島浩とか松岡洋右など)がいて、また、それを支持する世論があったことになる。

ドイツ(あるいはヒトラー)と軍事同盟を結べば、ソ連や英米を敵にまわすことになる。そして、戦争になったら日本に勝ち目はない。これは、冷静に考えれば分かることであったかもしれない。だからといって、その当時の日本において、中国での戦争を終わらせて、英米と協調路線に転換することは、容易なことではなかったことも確かではあるが。(ただ、その当時の英米も、帝国主義国家である。日本の中国戦争を批判はしても、アジアの植民地支配という立場では、どこか落とし所があった可能性はある。といって、日中戦争を正当化することは今日の観点からはできないだろうが。)

第二には、まさに今の日本の状況。この本を読んでいるとき、ちょうどロシアのウクライナ侵攻がはじまった時である。さて、日本の政治家、また、世界の政治家は、この事態について、どう判断することになるのだろうか。

今から、八〇年ほど前のこと……第二次世界大戦の前夜、日本の、また、世界の政治家や軍人たちは、どのように判断していたのか……これは、歴史の教訓として、いくらでも学ぶべきところがあると思う。

この本を読みながら、脳裏に去来するのは、まさに今の国際情勢と、そのなかにおける、各国指導者の判断の是非である。ロシア、ウクライナ、アメリカ、EU、中国、そして、日本などの各国の指導者は、いったい何を思って行動しているのだろうか。根拠のない希望的観測にもとづいて判断しているということはないだろうか。

今の世界の情勢を冷静になって見てみようとするとき、この本の描いている日独伊三国同盟締結にいたるプロセスは、さまざまに考えるヒントを与えてくれるかと思う。国家の指導者とは、かならずしも合理的な判断ができるとは限らないことを、読みとることができるだろう。政治家が合理的で正確な判断ができるなら、そもそも戦争などおこりようがない。

以上の二つのことを、書きとめておきたい。

大木毅の本は、他に読んでいないものがある。読んでおきたいと思う。

2022年2月27日記

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