『盆土産と十七の短篇』三浦哲郎/中公文庫2022-03-31

2022年3月31日 當山日出夫(とうやまひでお)

盆土産と十七の短篇

三浦哲郎.『盆土産と十七の短篇』(中公文庫).中央公論新社.2020
https://www.chuko.co.jp/bunko/2020/06/206901.html

三浦哲郎の短篇集である。主に、学校教科書に採録された作品を中心に編集してある。収録するのは、つぎの作品。

盆土産
金色の朝
おふくろの消息
私の木刀綺譚
猫背の小指
ジャスミンと恋文
汁粉の酔うの記
方言について
春は夜汽車の窓から
おおるり
石段
睡蓮
星夜
ロボット
鳥寄せ
メリー・ゴー・ラウンド
とんかつ
じねんじょ

他にいくつかのエッセイと、解説(阿部昭)がついている。

三浦哲郎というと、私が憶えているのは、『忍ぶ川』である。若い時、高校生か大学生になっていたか、読んだのを憶えている。その清冽な叙情性が印象深い。

この短篇集に収録の作品については、いくつかは読んだことがある。「盆土産」は、同じ中公文庫の教科書収録作品のアンソロジーで読んだ。ただ、私は、この作品を教室で教科書で読んだ記憶はない。(たまたま収録されていなかった出版社のものを使っていたということなのだろうが。)

まったく小説とは離れるのだが……「盆土産」を読むと、数年前のNHKが放送した朝ドラの『ひよっこ』のことをどうしても思ってしまう。茨城の田舎から東京に出稼ぎに出た父。その帰りを待つ家族。姉弟、妻、祖父。久しぶりに故郷に帰る父は、いったい何をお土産に買ってきてくれるだろうか。その期待感、不安、再会のよろこび、また、分かれ……このような感情の交錯を、実に細やかな脚本で描いていた。

そして、この「盆土産」の書かれた時代まで、地方から東京への出稼ぎということが日常的にあった時代であり、地方と都市のその生活様式の違いというものも歴然としていた。そのような時代があったのである。

そのような時代があったことを、特に否定的にとらえるのでもなく、といって逆に懐古するでもなく、淡々と、家族の情感をつづってある。この作品は、名作だと思う。

だが、今の学校教科書には採録されているだろうか。今では、冷凍食品が全国どこでも買える。東京からのお土産にエビフライを買って帰る時代ではないだろう。また、地方と都市の生活も似たようなものになってきてしまっているともいえる。この作品に描かれているような、純朴な生活感覚は、はたして生き残っているといえるだろうか。

というようなことを思ってみるのだが、しかし、この作品は読まれていってほしい作品の一つであることは確かである。

2022年3月24日記

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