『中央線小説傑作選』南陀楼綾繁(編)/中公文庫2022-06-06

2022年6月6日 當山日出夫(とうやまひでお)

中央線小説傑作選

南陀楼綾繁(編).『中央線小説傑作選』(中公文庫).中央公論新社.2022
https://www.chuko.co.jp/bunko/2022/03/207193.html

短篇集である。収録するのは次の作品。

土手三番町 内田百閒
こがね虫たちの夜 五木寛之
揺り椅子 小沼丹
阿佐ヶ谷会 井伏鱒二
寒鮒 上林暁
心願の国 原民喜
犯人 太宰治
眼 吉村昭
風の吹く部屋 尾辻克彦
たまらん坂 黒井千次
新開地の事件 松本清張

共通することとしては、中央線の沿線にまつわる小説、ただこれだけである。そして、配列順は、駅順になっていく。ちょっと変わったアンソロジーである。このような趣向の本もあっていいと思う。

実に様々な作品がある。やや長いものもあれば、ごく短いものもある。なんとなく時間のあるときに、手にする本として読んで、ようやく読み終わった。

なかで印象に残るのは、五木寛之の作品だろうか。私は、これまで、あまり五木寛之の作品を読んではこなかった。なんとなく遠ざけてきたところがある。考えてみれば、五木寛之も、二〇世紀から二一世紀にかけて、昭和戦後の時代から平成の時代を経て、活躍してきていることになる。五木寛之も、読んでおきたい作家として、再認識することになった。

ところで、中央線沿線が舞台の作品というと、私が思い浮かぶのは、向田邦子のライオンの話しである。たしか、中野あたりのことではなかったろうか(記憶で書いているのであいまいであるが。)これなど、是非、収録したいと思う。が、これは、小説ではなくエッセイだから無理なのかもしれない。

ともあれ、このアンソロジーに入っていなければ読まなかったような作品が多くあることもたしかである。

2022年6月1日記