『むらさきのスカートの女』今村夏子/朝日文庫2022-07-22

2022年7月22日 當山日出夫

むらさきのスカートの女

今村夏子.『むらさきのスカートの女』(朝日文庫).朝日新聞出版.2022(朝日新聞社.2019)
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=23576

芥川賞の受賞作である。文庫本で出たので読んでみた。

これは、「見る」ものと「見られる」ものとの小説である。まず登場するのはタイトルになっている「むらさきのスカートの女」なのであるが、読んでいくと、この「むらさきのスカートの女」よりも、それを「見る」あるいは、それについて語る語り手のことが気になってくる。いったいこの小説の語り手は、誰なのか。なぜ、「むらさきのスカートの女」のことを、そうまで執拗に語ることになるのか。読んでいくうちに、この語り手の方が、この小説の主人公ではないかと思えてくる。

そして、この感覚は、この小説の最後のところで、ある種のしめくくりを見ることになる。

これは傑作だと思う。読み方によっては、犯罪小説と読めなくもない。(海外に紹介されたとき、そのように詳解されたようでもある。)

現代社会における人間の孤独と疎外、これを比較的かろやかなタッチで、しかし、思わず引きこまれる語り口で語っている。「見る」ということ、「見られる」ということに、人間の存在の深淵がのぞく小説と言っていいかもしれない。

2022年6月17日記