『貸本屋とマンガの棚』高野慎三/ちくま文庫2022-08-26

2022年8月26日 當山日出夫

貸本屋とマンガの棚

高野慎三.『貸本屋とマンガの棚』(ちくま文庫).筑摩書房.2022
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480438386/

元の本は、『貸本マンガと戦後の風景』(論創社.2016)。タイトルを改めて、文庫にしたものである。

戦後の出版、読書、サブカルチャーというようなことに興味にある人にとっては、必読の本であるといっていいだろう。戦後の貸本屋におかれたマンガ本、それは、どのような作者が書いて、どのような読者がいたのか。また、それは、どのように流通していたのか。そして、周辺の貸本小説や映画などとのかかわりはどうであったのか、実に興味がつきない。

読んで思うことはいろいろあるが、二つばかり書いてみる。

第一には、戦後のある時期にについての証言としての面白さである。戦後、貸本屋にマンガがおかれていた。その期間は、十数年ほどのことになる。その時期を実際に生きてきた人間の目で、貸本マンガの栄枯盛衰をたどってある。これは、とりもなおさず、その作者たちや読者たちをまきこんだ歴史の証言ともなっている。戦後の文化史として読んで、非常に面白い。

第二には、一般に読書史という興味からの面白さ。いったい日本人は、何を読んできたのだろうか。特に、戦後、義務教育を終えて都市で働いていたような若者たちは……いや、中には戦災孤児など義務教育を満足に受けられなかった人びともいたののだが……いったい娯楽に何を求めていたのか。何を読んでいたのか。このような視点から見て、興味深い指摘が多くある。決して「文学」を読んできたのではないことが理解される。

だいたい以上の二つのことを思って見る。

私は、昭和三〇年(一九五五)の生まれである。貸本屋の全盛期は経験的には知らない。しかし、その残滓とでもいうべきものがあったことは、かろうじて体験的に知っている。

この本は、マンガ史研究にとっても貴重な証言や考察に満ちている。そして、その一方で、その作者たち、読者たちは、どのような人びとであったのかという興味関心もある。戦後貸本マンガについての貴重な調査と証言は、これからのマンガ研究のみならず、文化史、読書史といった分野において、貴重なものである。

中でも、戦争マンガとかSFマンガ、それから少女マンガのことなど、面白い。これらは、マンガ史というよりも、さらに大きな枠組み……戦後の文化史……という観点から、再検討されるべきことのように思われる。

2022年8月25日記