『城』カフカ/池内紀(訳)2022-08-27

2022年8月27日 當山日出夫

城

カフカ.池内紀(訳).『城』(白水Uブックス).白水社.2006
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b205601.html

『城』を読み返すのは、何度目かになる。若い時に読んだかと思う。近年になっても読みかえしている。新潮文庫版である。見ていて、白水社版で池内紀の訳があったので、今回はこれで読んでみることにした。

この前、『城』を読んだときから、世界は変わった。COVID-19の流行ということがあり、今年になってからはウクライナでの出来事があった。文学を、その時々の時事的な問題にひきつけて理解するのは、正しくないのであろう。しかし、文学が普遍的な価値を持つとするならば、どのような状況下にあっても、その時々の世界の情勢のなかで、解釈され読まれるものとしてであるともいえよう。この意味では、『城』は、まさしく現代という時代においても、その普遍的価値を持った作品として存在することになる。

「城」は何の表象なのか、まさに、『城』という作品の読書の数だけ解釈が可能であろう。それが、今の時代にあっては、COVID-19やウクライナでの出来事などが、重なって脳裏にうかんでくる。どうしようもなく、理不尽で不条理におかれた人間の悲喜劇のあれこれとしてであるといってよいだろうか。

ただ、今回読みかえしてみて思ったこととしては、以前読んだときには、Kという登場人物と城との関係を軸に読んでいた。それが、今回読みなおしてみて感じるところは、村の人びとにとってKとは何者なのか、という視点で読むことになった。(これは、翻訳がかわっているということのせいもあるのかもしれないが。)

村の人びとにとってKは、部外者、よそ者がいきなりやってきたことになる。それが、城と関係あるという。村の人びとの生活にとって、Kの存在はいったい何なのであろうか。必ずしも歓迎されるとは限らないようだ。

今のような時代状況のなかにあって、カフカは、じっくりと読みかえしてみたい作家である。

2022年8月25日記