『殺しへのライン』アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭(訳)2022-09-19

2022年9月19日 當山日出夫

殺しへのライン

アンソニー・ホロヴィッツ.山田蘭(訳).『殺しへのライン』(創元推理文庫).東京創元社.2022
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488265137

たぶん、この作品は、例年のように今年のベストにはいるだろう。出るのを待って買って読んだ。

ミステリとしてのこの作品については、散々書かれているだろうから、特に繰り返すこともないと思う。ただ、読んで思ったことなど書いておく。

第一には、やはり設定のうまさだろう。

場所は島。絶海の孤島、嵐の山荘、というわけではないのだが、限られた場所における事件ということは魅力的である。この作品のストーリー、トリックは、例えばどこかのリゾート地でもなりたつのだが、島という設定になっていることで、より魅力を増していることになる。

第二には、小説としての面白さ。

アンソニー・ホロヴィッツの作品のいくつか……年間のベストに入るような作品については、これまでに出るたびごとに読んできている。ミステリとしてよく出来ているというよりも、小説として面白いのである。これは、ミステリを支える読者層というか、文学の社会的基盤というか、基層となっている部分が日本とは違っているということかとも思う。といって、日本のミステリが、文学として劣っているとはおわないのであるが。

ざっと以上のようなことを思ってみる。

それにしても、今の時代において、このようなフーダニットを書けるということは見事としかいいようがないし、また、同時代にこのような作品を読める読者としては、幸運であると言うべきだろう。ミステリを読む醍醐味を感じさせてくれる一冊である。

2022年9月15日記