『平家物語』石母田正/岩波文庫2022-12-02

2022年12月2日 當山日出夫

平家物語

石母田正.高橋昌明(編).『平家物語 他六編』(岩波文庫).岩波書店.2022
https://www.iwanami.co.jp/book/b615161.html

もとの本は、岩波新書の『平家物語』(一九五七)である。これを読むのは、少なくとも三度目になる。

若い時、学生のころ、岩波新書で出ていたのを買って読んだ。そのときに印象にのこったこととしては、やはり、知盛の「見るべき程の事は見つ」ということば、そして「運命」ということであった。

何年前になるだろうか、ふとこの本を読みなおしてみたくなって、古書で買って読んだ。このとき、歴史学者としての石母田正の評価はどうだったろうか。もう、過去の人という雰囲気であったかなと思う。久々に読みなおしてみて、歴史学者の考える「運命」とはどんなものなのだろうかと、いろいろと考えたものである。

それが、岩波文庫版として新しく刊行になったので、買って読んでみた。

読んで思うこととしては、率直に面白い本であるということになる。『平家物語』という作品の魅力を、「運命」「叙事詩」というようなキーワードで読み解いていく。今の時点で読んでみて、その語っていることすべてに賛成できるということはないのであるが、しかし、読んで面白かった。昔読んだ時には、こんなに面白い本だとは思わなかったというのが、正直なところである。

『平家物語』は、これも若い時に目を通した。これで論文を書いたこともある。だが、一つの文学作品として、最初から順番にページを繰っていくということは、近年になってからのことである。その文学史的な位置も一通り知っており、どんな作品かは知っているとしても、一つの文学作品として、ただ読むということは、あまりしてこなかった。が、これも、老後の読書と割り切って、特に論文など書こうと思わないで、ただ楽しみのためにだけ、古典を読んでおきたいと思うようになっている。『平家物語』も、きちんと読みたい作品の一つ。その読書の手助けとして、この石母田正の「平家物語」は非常にいい。

ただ、『平家物語』を、「叙事詩」としてとらえることには、ちょっと疑問がないではない。日本文学の歴史をふりかえって、「叙事詩」というべき作品を探すとなると、確かに『平家物語』がある。だから、『平家物語』が「叙事詩」であるとするのは、やや短絡的である。ここは、石母田正が書いているように、この作品の作者の持っていた「物語精神」を読みとるべきだろう。これは、『源氏物語』とも『今昔物語集』とも違った、鎌倉時代という時代になって生まれた、新しい文学である。

この本を読んで、再度、『平家物語』をじっくりと読みなおしてみたくなった。

2022年11月27日記

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2022/12/02/9545124/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。