『私たちの想像力は資本主義を超えるか』大澤真幸/角川ソフィア文庫2023-03-17

2023年3月17日 當山日出夫

私たちの想像力は資本主義を超えるか

大澤真幸.『私たちの想像力は資本主義を超えるか』(角川ソフィア文庫).KADOKAWA.2023(KADOKAWA.2018.『サブカルの想像力は資本主義を超えるか』改題)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322208000921/

早稲田大学文化構想学部で講義をまとめたもの。講義自体は二〇一六年度のものであるという。あつかってあるものとしては、『シン・ゴジラ』、『おそ松さん』、『デスノート』、『君の名は。』、『この世界の片隅に』など、近年のいわゆるサブカルチャーの作品である。これを読み解くことで、今の我々の社会のあり方のどのような面が見えてくるのか、これが主眼と言っていいのだろう。無論、同時に、あつかってある作品の、社会学的な分析をともなうものになっている。

この本は面白く読んだ。あつかってある作品は、たいてい、少なくとも名前は知っているものが多い。ただ、私の場合、ほとんど映画もテレビドラマも見ない、また、漫画も読まないので、名前だけ知っているというのがほとんどなのだが。(その中の例外は、『この世界の片隅に』である。これは、原作の漫画も読んだし、テレビではあるが映画版も見ている。また、テレビドラマ版も見た。)

この世界がどう見えてくるか……サブカルチャー作品だからこそ見えてくる世界がある、これには同意できる。だが、残念ながら、その分析対象になっているサブカルチャー作品にうといので、はたして妥当な分析になっているかどうか、今一つ隔靴掻痒の感じが残ってしまう。しかし、結論的に言うならば、おそらくここでの分析は妥当なものなのだろうと思う。

『シン・ゴジラ』に関連しては、たとえば『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(佐藤健志)が出てくるあたりは、懐かしく思って読んだところでもある。ウルトラマン、すなわち、日本における米軍である、というあたりの評価はうなづけるところがある。

それから、『この世界の片隅に』の原作漫画を読んで、私が一番、ある種の違和感を感じたのは、太極旗の一コマである。昭和二〇年の終戦のときに登場している。ここのところに、主人公のすずの生きてきた世界が、朝鮮半島を植民地にもつ大日本帝国であったことが示される。しかし、この大澤真幸のこの本では、この点についての言及はない。

この本では「資本主義」と現代の我々の生きている社会、世界のことを言っている。そして、資本主義の行き詰まりをなにがしか意識して生きているのが、現代という時代である。とはいえ、「資本主義」の終わり、あるいは、その後の世界を想像することは難しい。

だが、これも、近年のサブカルチャーを分析することで見えてくるところがあるのかもしれない。ここのところは、この本の続編に期待することになる。

2023年1月31日記