『シニア右翼』古谷経衡/中公新書ラクレ2023-05-05

2023年5月5日 當山日出夫

シニア右翼

古谷経衡.『シニア右翼-日本の中高年はなぜ右傾化するのか-』(中公新書ラクレ).中央公論新社.2023
https://www.chuko.co.jp/laclef/2023/03/150790.html

なかなか興味深い指摘の本である。

まず、シニア右翼、ネット右翼なるものの説明である。YouTubeに感化されて、急速に右傾化してしまった中高年がかなり存在する。それは、ネットリテラシーのないままに、インターネット環境が生活のなかに入りこんで、無批判に右翼的な言論に影響されてしまった結果だという。

なるほどそんなものかなと思う。

たしかに、Twitterの私のTLには、右翼的なものが流れてくる。そのほとんどは、RTされたものである。まあ、こんなことを頭から信じているのではなく、半分遊びでやっているのかな、ぐらいな感じで見てはいるのだが、どうやらそうではないようだ。やっている本人は、真面目にやっているらしい。

たまたまであるが、今日(2023年5月3日)、読売新聞のWEB版を見ていたら、安倍元首相の狙撃事件の真犯人は別にいるという陰謀論が流れているらしい。そして、それを信じている人が、(一部なのだろうが)確かに存在しているようだ。これなども、シニア右翼、ネット右翼の一部ということになるのだろう。

読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230503-OYT1T50069/

ネットリテラシーのないままに、WEBの特定の情報に感化されてしまうということは、考えられなくもない。そのような人たちもいるにはいるのだろうと思う。だが、右翼に対して、左翼も同様ではないかとも思えるのだが、どうもそうではないらしい。どうして右翼だけが、YouTubeに影響されてしまうのか、ここのところの説明の説得力に今一つ欠ける気がしてならない。

シニア右翼が登場する背景としての、戦前からの「右翼」の歴史をふりかえり、それがどのような人びとによって担われているのか、このあたりまでは納得できる。正統的な、「右翼」「保守」とは、シニア右翼、ネット右翼とは別である。(この意味では、私は、自分自身は「保守的なリベラル」であると思っている。)

だが、その理由として、戦後民主主義の不徹底にもとめるのはどうだろうか。(だからといって、私は、戦後民主主義が日本で根づいたものとしてあるということはないと思う。それは、いまだに「虚妄」であるのかもしれないのだ。)

面白いのは、シニア右翼は、YouTubeのチャンネル桜を鵜呑みにしていて、『正論』をきちんと読むことはないらしい、ということ。これは、単に馬鹿としかいいようがない。(私も若いときは『正論』を読むことはあった。だが、同時に『朝日ジャーナル』も読んでいた。)ネットリテラシー以前の問題に思えてならない。いつの世にも、馬鹿はいるものである。

まあ、右翼でも左翼でもよいが、きちんと本を読み、歴史に学び、自分で考える。そして、必要ならば、時の政権、社会情勢に対して批判的でもある……この当たり前のことを、心がけるだけのことである。

ただ、世代別のネットリテラシーについては、細かく検証の必要があると思う。ここのところの指摘は重要かもしれない。そして、若い世代にとって、これからのAIがネット言論に影響を及ぼしかねない状況で、どうあるべきなのか、これも(この本では書いていないが)大きな課題と言っていいだろう。

2023年5月3日記