『牧野富太郎の植物愛』大庭秀章/朝日新書 ― 2023-05-13
2023年5月13日 當山日出夫

大庭秀章.『牧野富太郎の植物愛』(朝日新書).朝日新聞出版.2023
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=24160
牧野富太郎についての本をいくつか読んでいる。これもそのなかの一つ。これも面白かった。
読んで思うことを二つばかり書いておく。
第一に、評伝として簡潔でまとまっていること。牧野富太郎についての本はたくさん出ているが、そのなかで、読みやすく書かれているのではないだろうか。そんなにドラマチックな人生として描かれているのではないが、その人生の要点が分かりやすく書いてある。
それを記述する視点が植物学者ならではのものである。植物学に精通している著者だからこそ、牧野富太郎の研究の意義も、そして、その時代的な制約や限界も十分に理解している。簡潔な記述ながら、植物学者としての牧野富太郎が見えてくる。
第二に、「自叙伝」の信用性に対する記述である。普通は「自叙伝」は第一級の史料となるにはちがないが、しかし、そこに史料批判の目を向けている。例えば、東京大学の谷田部教授を訪問して面会したのは何時のことなのか、これがはっきりしないようだ。
「自叙伝」は、牧野富太郎が晩年になってから書いている。しかし、その初出雑誌は、ほとんど植物学関係者の目にふれることのないところにおいてであった。また、単行本として刊行されたとき、関係する人間はみな物故者になった後のことになる。さて、どこまで信用して読んでいいものか、疑問が生じる。
以上の二点が、印象に残るところである。
また、この本でも、牧野富太郎の植物画のすばらしさについて言及がある。
ところで、この本でも、少しだけ触れてあるのだが、牧野富太郎は、学者としては奇行がかなりあったらしい。まあ、研究者らしからぬ振る舞いがあったということになる。(このようなことについては、田中伸幸の『牧野富太郎の植物学』でもいくぶんの記述がある。やはり、学者の評伝は学者が書いたものを読むのがいい。)
確かに牧野富太郎の「業績」は大きいかもしれないが、少なからぬ奇癖のあった人物としてとらえておいた方がよいようだ。少なくとも、妙に神格化はしてはならないだろう。
このようなことは、植物学を専門に勉強するとしたら、例えば学会の後の懇親会の後の二次会ででも、先輩が若い研究者に話すようなことかもしれないのだが。
2023年5月9日記
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=24160
牧野富太郎についての本をいくつか読んでいる。これもそのなかの一つ。これも面白かった。
読んで思うことを二つばかり書いておく。
第一に、評伝として簡潔でまとまっていること。牧野富太郎についての本はたくさん出ているが、そのなかで、読みやすく書かれているのではないだろうか。そんなにドラマチックな人生として描かれているのではないが、その人生の要点が分かりやすく書いてある。
それを記述する視点が植物学者ならではのものである。植物学に精通している著者だからこそ、牧野富太郎の研究の意義も、そして、その時代的な制約や限界も十分に理解している。簡潔な記述ながら、植物学者としての牧野富太郎が見えてくる。
第二に、「自叙伝」の信用性に対する記述である。普通は「自叙伝」は第一級の史料となるにはちがないが、しかし、そこに史料批判の目を向けている。例えば、東京大学の谷田部教授を訪問して面会したのは何時のことなのか、これがはっきりしないようだ。
「自叙伝」は、牧野富太郎が晩年になってから書いている。しかし、その初出雑誌は、ほとんど植物学関係者の目にふれることのないところにおいてであった。また、単行本として刊行されたとき、関係する人間はみな物故者になった後のことになる。さて、どこまで信用して読んでいいものか、疑問が生じる。
以上の二点が、印象に残るところである。
また、この本でも、牧野富太郎の植物画のすばらしさについて言及がある。
ところで、この本でも、少しだけ触れてあるのだが、牧野富太郎は、学者としては奇行がかなりあったらしい。まあ、研究者らしからぬ振る舞いがあったということになる。(このようなことについては、田中伸幸の『牧野富太郎の植物学』でもいくぶんの記述がある。やはり、学者の評伝は学者が書いたものを読むのがいい。)
確かに牧野富太郎の「業績」は大きいかもしれないが、少なからぬ奇癖のあった人物としてとらえておいた方がよいようだ。少なくとも、妙に神格化はしてはならないだろう。
このようなことは、植物学を専門に勉強するとしたら、例えば学会の後の懇親会の後の二次会ででも、先輩が若い研究者に話すようなことかもしれないのだが。
2023年5月9日記
最近のコメント