『目的への抵抗』國分功一郎/新潮新書2023-07-07

2023年7月7日 當山日出夫

目的への抵抗

2023年7月7日 當山日出夫

國分功一郎.『目的への抵抗-シリーズ哲学講話-』(新潮新書).新潮社.2023
https://www.shinchosha.co.jp/book/610991/

この本については、次の二点が言えるだろう。

第一には、『暇と退屈の倫理学』を受けてのものだということ。

『暇と退屈の倫理学』は読んだ。面白い本だった。これは、その延長線上の議論がいくつか展開されている。つきつめて考えれば、人間にとって自由とはどのようなものなのか、ということについての考察になる。不要不急と言われたが、人間にとって、必要とは何か、あるいは、贅沢とは何か、このことについて考えることになる。

第二には、COVID-19、コロナ禍で人はどうあるべきかという考察であること。

この本を読み、この文章を書いている時点では、コロナ禍というのは、いくぶんは過去のものになった印象がある。だが、二〇二〇年から始まる、三年あまりの月日は、いろんな苦労もあったが、その一方で、いろいろと考えるべきこともあった。それについて、著者は、イタリアの哲学者、アガンベンの言説を引用することで、問題提起をおこなっている。

生存だけに価値を見出すことの問題。死者の権利の問題。移動の自由の問題。

日本では、ネットで炎上するということはなかったが、これらの問題提起は、重要である。(余計なこととして思うことは、では、何故、日本ではアガンベンの提起した議論が論じられることがなかったのだろうか。ここに、日本の現代の社会の抱える根本的な問題があるのではないだろうか。)

ざっと以上の二点を軸とする本である。この本は、講話だという。一般的に言えば、講義の筆記録である。ただ、それが、大学の授業(成績や単位の認定にかかわる)ではなく、学生相手に自由な場面を設定して行われたということは、重要かもしれない。

どのような場面で、どのような相手に対して語られたことばであるかは、コロナ禍でのオンライン会議などを通じて、逆にその意味が明らかになってきていると言ってもいいだろう。

この本を読んで感じることは……考えることの重要性である。まさに哲学と言ってもいい。自分でものごとを考えること、そして、どのような状況で、何について、どう考えるのか、ここのところに自覚的であることの重要性である。言いかえるならば、ただ考えたことの結論があればいいというのではない。

今、対話AIがいろいろと問題になっている。このような状況にあって、自分自身でものごとを考えることの、ある意味ではその楽しさとでも言っていいだろうか、これを感じさせる本である。今まさにこの時代であるからこそ、広く読まれていい本であると思う。

2023年4月28日記

『悪女について』(後編)2023-07-07

2023年7月6日 當山日出夫

悪女について(後編)

後編になって……これは、かなり原作を改編してあるな、と思う。まあ、原作の小説があるからといってそれに忠実に作らなければならないということではない。しかし、原作の小説としてのインパクトがかなり大きいだけに……読んだのは、も半世紀近く昔のことになるが、強い印象を持って憶えている……このようなドラマの作り方には、ちょっと拍子抜けするという感じがする。

公子というヒロインは、もっと謎めいた存在であったはずである。様々な語りから浮かびあがる彼女の本当の姿はいったい何なのか、これは誰にもわからない。ここのところにこそ、「悪女」の魅力があったと憶えている。

このドラマでは、この「悪女」が、いい人になってしまっている。

それから、たしかに『悪女について』ということでは、田中みな実は適役という気はするのだが、しかし、今一つ役者としてうまくない。といって、他のどの役者ならという気はまったくないのだが。

2023年7月5日記