100分de名著「林芙美子“放浪記” (2)お人好しの嫌われ者」2023-07-13

2023年7月13日 當山日出夫

100分de名著「林芙美子“放浪記” (2)お人好しの嫌われ者」

『放浪記』は何度か読んでいるのだが、社会の底辺で生きる女あるいは女たちのしたたかさを感じたものである。社会の底辺というが、『放浪記』に出てくるのは、カフェーの女給ぐらいである。(ちなみに、今、ATOKで「じょきゅう」からは返還してくれなかった。もう今では使わないことばになってしまっているということなのだろうか。)

言うまでもないが、女給は、ウエイトレスのようなものではない。せいぜいよく言っても、娼婦の一歩手前ぐらいだろうか。

その女性たちのなかにあって、文学への気持ちを失わないでいる主人公の気持ちにひかれるところがある。

たしかに『放浪記』には、あまりいい男は出てきていないと憶えている。惨めな生活をしているから、ろくでもない男たちがやってくるのか、それとも、主人公の男を見る目がシニカルにすぎるのか。

番組のなかでは、林芙美子の詩が少し紹介されていた。『放浪記』を読むと、実に多くの詩が出てくる。それ以外にも、文章それ自体が、非常に詩的である。詩情に満ちた文章としての『放浪記』という側面も、私は強く感じる。

2023年7月12日記

『出世と恋愛』斎藤美奈子/講談社現代新書2023-07-13

2023年7月13日 當山日出夫


斎藤美奈子.『出世と恋愛-近代文学で読む男と女-』(講談社現代新書).講談社.2023

論じてあるのは、

夏目漱石『三四郞』
森鷗外『青年』
田山花袋『田舎教師』
武者小路実篤『友情』
島崎藤村『桜の実の熟する時』
細井和喜蔵『奴隷』
徳冨蘆花『不如帰』
尾崎紅葉『金色夜叉』
伊藤左千夫『野菊の墓』
有島武郎『或る女』
菊池寛『真珠夫人』
宮本百合子『伸子』

読んだことのある作品もあれば、名前だけ知っている作品もある。この本で始めて知った作品もある。が、総じて、近代文学のなかで代表的な小説を集めてあると言っていいだろう。

著者は断定する。

1.主人公は地方から上京してきた青年である。
2.彼は都会的な女性に魅了される。
3.しかし彼は何もできずに、結局ふられる。

近代日本の青春小説は、みんなこのようであるとする。

なるほどそう言われてみればそうかなと思って読むことになる。そして、この断定が一定の説得力を持つ。

近代日本の恋愛小説史であり、文学史の概略であり、全体として非常によくまとまっていると思う。部分的には異論はあるかと思うのだが、日本近代の青春小説、恋愛小説とはどんなものであるのか、おおざっぱに考えて見たいという向きには、適当な本ではないだろうか。

2023年7月12日記