『カーネーション』「秘密」2024-12-01

2024年12月1日 當山日出夫

『カーネーション』「秘密」

この週は、夫の勝の出征をめぐる展開であった。

これまで朝ドラで、登場人物の出征ということは多く描かれてきている。そのなかでも、『カーネーション』の場合は、かなり丁寧に描いていると感じる。

戦時下に結婚したふたりの純愛の物語、とはなっていない。勝もいろいろあるが、糸子もいろいろとある。しかし、それでも二人で小原の店をやってきたことは確かであるし、そこで育まれた情愛はある。子どもや家族への思いもある。

勝は糸子と歌舞伎を見に行く。これも、普通のドラマなら、夫の優しさの表れであり、また、戦争が始まっているとはいえ、歌舞伎を見に行くぐらいの余裕のあった時代、ということになる。これを、そのようなことで済ませないのが、このドラマのいいところである。

劇場で、糸子は、芸妓の菊乃と出会う。

入営した勝が糸子のもとに送ってきた荷物のなかには、勝と菊乃が並んで映っている写真があった。おそろいの浴衣と丹前姿なので、どこかの温泉旅館にでも一緒に行ったときのものとおぼしい。これは、勝が菊乃と浮気していたということになる。

勝の件をめぐっては、糸子は複雑な思いになる。まわりの男性たちは、男の浮気の一つぐらいどうってことはない、といっている。しかし、糸子はそれを許す気にはなれない。どうやら、父親の善作はこのことを知っていたらしい。出征の前の晩、二人で酒を酌み交わしていた。糸子は、奈津のところに相談にいく。そこで、奈津の檀那も芸妓と逃げてしまったことを知る。

糸子のこころのうちは、いろいろと考える。勝は本当に浮気していたのか。自分(糸子)のことを、どう思っていたのか。また、糸子自身は勝のことをどう思っていたのか。仕事のできる職人が家にいるぐらいに思っていたのか。だが、実際に勝が家からいなくなってしまうと、淋しくなる。その思いは、複雑に錯綜する。

このあたりの勝のことと、糸子の心情と、複雑に絡まり合った気持ちをうまく表していた。単に、夫は妻のことを愛していて、家族をのこして出征する、というありきたりの、(これまでの多くの朝ドラが描いてきたような)単純な形にはしていない。これが、その後の糸子の生き方とも関連してくるようになっている。やはり、このドラマは、よく考えて作ってあると感じるところである。

また、細かなところだが、映像としてもいい。小原の店の棚においてあるものとか、食事の場面とか、非常に丁寧に作ってある。歌舞伎を見にいった劇場の回想の場面はあえてモノクロ映像にしてあったが、糸子が口紅をさしていることがはっきりわかるように、その赤い色が強調される映像になっていた。(昔の白黒写真の時代だと、フィルムの特性として、赤い色に強く反応するということはあるのだが。)

最後にカイロが出てきていた。ベンジンを使うタイプのものである。これは、若いころまで現役で日常的に家庭で使用されていたものである。カイロといばこれだった。ベンジンも、普通に身の周りあったと記憶する。それも、今では、まったく無くなってしまったものである。

国防婦人会が登場していたが、朝ドラのなかでは、どうしても悪役ということになる。しかし、歴史的には、戦時中、家庭のなかに閉じ込められていた女性が、外に出て活動できる機会を作ったものとして、むしろ女性史の観点から考えなおすべきことかもしれないと、私は思っている。

召集令状がとどいたシーン。係の人が小原の家にやってきて、本人を確認したうえで、署名捺印を求めていた。これは、珍しい場面になる。召集令状は、それをもって入営するので実物がほとんど残っていない。私が見たことがあるのは、靖国神社の遊就館に展示してあるのを見たことがあるだけである。

2024年11月30日記

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