「神秘の古代ミステリー 徹底検証!日本・ユダヤ同祖論」2024-12-10

2024年12月10日 當山日出夫

ダークサイドミステリー 神秘の古代ミステリー 徹底検証!日本・ユダヤ同祖論

再放送である。最初の放送は、二〇二三年七月。

こういう話しは大好きである。

日ユ同祖論というのがあるということは、知識としては知っていたが、それがどのような歴史的背景で成立したものなのかについては、あまり考えたことがなかった。このような企画の番組はあっていい。だが、普通のNHKの番組のなかでは、どの枠でやるかは難しいところかもしれない。総合の番組ではできないだろう。せいぜい頑張って、BSで磯田道史に「英雄たちの選択」で論じてもらうぐらいだろうか……。無論、この「ダークサイドミステリー」ならあつかえるということになる。インチキな話しが、なぜ成立して人びとに受容されてきたのかを、これまでにもあつかってきている。

録画してあったのを見終わってから、YouTubeで「日ユ同祖論」を検索してみた。こんなにたくさんあるのか、とおどろいた。これは、まあ、人の趣味と言ってしまえばそれまでなのだが、一方で、アカデミズムの敗北(?)という気がしないでもない。まあ、最近でも、「土偶を読む」というような事例もあるけれど。

日ユ同祖論の日本における歴史が簡潔にまとめられていた。

佐伯好郎、酒井勝軍、小谷部全一郎、という人の名前は、この番組で知った。これらの人たちが、いずれも、プロテスタントで留学経験があり、人種差別ということを体験していることは興味深い。欧米人から劣等民族(最近になって使われた左翼用語であるが)と見なされていた日本人が、実はすごい民族であったということを、主張したい、この気持ちはなんとなく理解できるところではある。そこで、近代の欧米文明よりも古い起源を持つユダヤ人と、古代日本人のつながりを探ることになる。また、これは、ユダヤ陰謀論と表裏一体のものでもある。

その後、戦後になって、高度経済成長期以降の日本において、日本というもののルーツを探すことが、社会的なブームになる。戦前戦中に教育をうけた人たちが、戦後の復興をはたしてから、では、自分たちは何者なのかという問いを発するようになるのも、これも自然な人の気持ちかとも思う。

そこに、邪馬台国はどこにあったか、というような古代史ブームが起こる。(この番組では言っていなかったが、梅原猛の仕事なども、この流れの中で考えるべきことになるだろう。私が、中学から高校生ぐらいのときのことである。)

古代史というのは、アマチュア研究者をひきつけるところがある。専門家は、アカデミズムのなかに閉じこもっていて、本当のことを語っていない、という批判的な眼差しは一般の人びとにあることは、確かなことだろう。

再放送なのであるが、今のこの時期にこの番組を放送することには意味がある。昨年からの、イスラエルとパレスチナとの紛争が終わる気配がない。(アメリカ大統領がトランプになると、どうなるかというところである。)今、再びわきおこっているのが、反ユダヤ論であり、逆に、イスラエルを支持するシオニズムの評価である。その他、アラブやイスラムについての、様々な言説がとびかっている。

このなかにあって、昔の人たちが、なぜ日ユ同祖論ということを言い始めたのか、そして、それが今なお続いているのは何故なのか、ということを冷静に考えることは意味のあることだと、私は考える。

たしかにアカデミズムの立場からすると、日ユ同祖論はまともに考えるに価しない。しかし、なぜ、近代になって、このような言説が生まれてきて、今も支持する人がいるのか、ということは、これは、「日本人論」論、として研究する価値があり、また、必要なことである。

YouTubeの言説を野放しにしておくというのも、これは、どうにかならなものだろうかと思うのが、正直なところである。『土偶を読むを読む』とは言わないまでも、しかるべき議論があってもいいだろう。反論すると相手と同じ土俵にあがることになるので、そんなのはいやだ、というのは研究者なら感じるところであるけれど。

番組のなかで言っていたこと……気持ちよすぎるものには気をつける、これはそのとおりだと思う。

2024年12月4日記

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