「能登輪島 炊き出し10万食〜地震と豪雨 地元を支えた食の力〜」2024-12-28

2024年12月28日 當山日出夫

新・プロジェクトX 能登輪島 炊き出し10万食〜地震と豪雨 地元を支えた食の力〜

この「新・プロジェクトX」(昔の「プロジェクトX」もそうだったが)、将来への教訓ということを、描かない。そういうのは、別の番組でやればいいということかもしれないが。前回のCOVID-19パンデミックに対する対応をあつかったときも、そうだった。次に同じようなパンデミックがおきたら、行政や専門家や市民はどうすべきか、なんら教訓となることを残していない。とにかく、みんな頑張った、で終わっている。(それが、この番組の趣旨なのだろうとは思うけれど。)

距離をおいて冷静に考えてみることにする。

最も興味深い(といっては失礼になるかもしれないが)ことは、災害がおこったときの人間の心理の変化である。まず、最初は何が起こったか分からないだろう。徐々に状況が分かるにつれて、その心理状態がどう変化するものなのか、貴重な証言として見ることもできるだろう。さらには、時間がたって復旧、復興がすすんでくると、その心のあり方は、どう変わっていくのか。

これはこれで、精神医学や心理学などの専門の研究として、将来のことを考えると、きちんと調べて対応を講じる必要のあることである。いわゆる心のケアということにもつながるが、その知見として何を学びとることができるか、貴重なケースということになるはずである。

それから、この番組のなかでは、公的な機関の援助や支援ということについて、基本的に言及していなかった。炊き出しが、市の要請をうけて続いたと言っていただけであった。このとき、行政(国や県や市)との調整はどうなっていたのだろうか。また、自衛隊などの活動とは、どのような関係にあったのか。これらは、将来のための教訓として、残しておくべきことであろう。

食材や調理器具などの調達について、道路が寸断されていた状態のなかで、その輸送はどうであったのか。ここが最も知りたいところである。道路が通じていなければ、救援物資もボランティアも無理である。(あるいは本当にこの番組で描くべきは、道路の補修にあたった人たちではなかったのか、という気もする。)

このような番組を見るといつも思うことだが、助け合った人たちが日頃から顔なじみであった、ということがある。このことを別の観点から見るならば、前近代的な町内会ともいえる。そして、これこそ、現代の日本の社会が全力で否定してきた、中間的共同体ということになる。特にリベラルな立場からは、非常に否定的である。個人の自由を束縛するものでしかないことになる。そのなかには、家族ということもふくまれる。そういう中間的共同体を否定しながら、しかし、同時に、見ず知らずの人によるボランティアでの手助けは価値あるものとすることには、どうも釈然としないものを感じる。これも、逆に、見ず知らずの人だから助ける気になるということは、人間の心理として有りうることだとは思うが。

さらに書いておくならば、災害にあったとして、この番組で紹介されていたように頑張って助け合わなければならない……言いかえれば、挫折したり、落ち込んだり、滅入ったり、ということはいけないことなのだろうか。これもまた、人間としての自然な心のはたらきであると、いっていいのではないか。世の中には、頑張れない人だっているはずである。また、災害のあった土地から離れてしまう人もいるかもしれない。それは、いけないことなのだろうか。災害があったときの、多様な人間の心のあり方についても、考えておくべきだと私は思うのであるが。(このようなことは、この番組の趣旨ではないということならば、それまでであるが。)

その他いろいろと思うことはある。かわいそうなめにあいながらも頑張った人たちの感動のドラマ、ということで見ることもできるけれども、できれば、さらに将来を見て、そのようなときはどうすることがいいのか……これから先、いつ、何がおこるか分からないが……考えることも必要かと思うのである。

「美談」が感動的に語られることによって、自分のことを考えて、逆に苦しい思いをする人がいるかもしれない、ということを想像してみることがあってもいいだろう。

2024年12月24日記

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