『べらぼう』「俄なる『明月余情』」2025-03-24

2025年3月24日 當山日出夫

『べらぼう』「俄なる『明月余情』」

江戸時代を舞台にして、こういう作り方のドラマもあるのだろう、と思う。武士も出てくるが、全然、サムライという雰囲気ではないし(刀を抜く場面がない)、町人も出てくるが江戸の市中の生活感覚を描くのでもない。ましてや、地方の百姓(江戸時代の百姓の実態というのは、いろいろと議論があると思うが)は登場しない。メインの舞台は、吉原である。吉原は、無論、悪所として、市中から遠ざけられた場所である。

吉原と、戯作と、浮世絵……これを基本路線にして作ったドラマとして見れば、蔦重の物語として、面白くはあるのだが、だけれども、なんかものたりない気がしてならない。一般にイメージされる江戸時代……それは、後世になってから時代劇として再構成されたものではあるが……と違っているし、かといって、蔦重を主人公としたドラマとしてみても、格段に面白いとは思わない。つまらない、というわけではないのだが、まあ、一般的な言い方をすれば、見ていて、人間っていうのはこういうもんだよなあ、と感じるところが少ないのである。そんなこととは関係なく波瀾万丈の大活劇ということでもないし。

ただ、映像はすごくいい。この回では、吉原の俄の描き方が、とても凝っている。芸能の考証をきちんとしてということもあるのだが、非常に見応えのある場面になっている。これは、さすがNHKが作っているなあ、と感じる。

江戸の出版プロデューサーとしての蔦重を描くということであるが、しかし、だからといって、戯作や浮世絵だけで、江戸の出版文化を語ることは、どうしても無理があるとしか思えない。そのように意図して演出しているのだろうが、松平定信が青本を読んでいてもいいと思うが、経書などに埋もれた書斎で、読書の合間に手にするとか、ふと縁側に出て読むとか……もうちょっと工夫があってもいいようにも思うところである。

吉原での俄は、たしかにそういうことがあって、人が大勢おしよせたのだろうが、本当に市中の人びとは、吉原のことをどう思っていたのだろうか。俄の本が、そんなに飛ぶように売れたのだろうか。このあたりのことは、ほとんど予備知識がないことなので、なんともいいようがない。

ただ、これからの展開として、蔦重はその後になって、写楽や歌麿とかかわることになる。私の目で見てであるが、写楽や歌麿は、芸術家というべきである。その作品は、描いた人間を深くとらえている。この芸術家の目を持った人間を、このドラマのなかでどう描くことになるか、これは気になるところである。

最近のNHKだと、広重、北斎、応為(北斎の娘)、若冲、などを描いている。昨年の『光る君へ』では紫式部を描いた。ドラマとしては評価するところもあるのだが、芸術家をそれらしく描けたかどうかとなると、どこかもの足りない。平安時代に生きた女性としての藤式部のドラマとしては面白かったが、芸術家としての紫式部のドラマとしてはどうかなと思うものであった。(だから、「源氏物語」とも「紫式部」とも出てこなかったのかとも思ったりするが。)

さて、うつせみが再登場していた。吉原を脱走しようとして捉まって折檻されていたのだが、どうやら無事だったようだ。これからどうなるだろうか。

吉原がそもそも江戸市中からは非日常空間である。そのなかでの祭りは、さらにその中での非日常空間ということになる。こういう状況のなかで、うつせみと新之助が再会するというのは、ドラマとしては面白いのだが、その後のことが気になる。

瀬川(瀬以)が最後に登場していたのだが、あまり幸福ではないようである。豪勢な身請けが花魁にとっての幸せということでは、かならずしもないことになるだろうか。

平賀源内のエレキテルは出来上がったようである。発明家というよりも、やはり山師という感じのする源内である。

やっとこの回になって、朋誠堂喜三二(平沢常富)があの人で、これまでにも画面には出ていたということであった。これも、凝った作り方、あるいは、遊びということになる。こういう遊びは、私は嫌いではないけれど。

祭りとは基本的に神事であったはずだが、この回の俄のように娯楽イベントになったのは、歴史的にどういう経緯を経てのことかは、気になったところである。

2025年3月23日記

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