英雄たちの選択「シリーズ 昭和のあけぼの (2)高橋是清・昭和恐慌と格闘した男」2025-04-17

2025年4月17日 當山日出夫

英雄たちの選択 シリーズ 昭和のあけぼの (2)高橋是清・昭和恐慌と格闘した男

番組の中ではひとことも出てこなかったが、国債を発行し続けて、それを、日銀が買い続けたのは、アベノミクスになる。それを、歴史を振り返ってみると、高橋是清の財政政策あたりにいきつく。高橋是清の場合は、三年で止めていたのだが。

この回に登場していたのが、飯田泰之と、一ノ瀬俊也。飯田泰之は分かるが、一ノ瀬俊也はいったい何のためにと思って見ていたのだが(軍事史の専門家であるはずだが)、なるほどと思うところはあった。昭和の初めごろの農村の生活(特にその経済事情)と、軍(特に陸軍)の動きは、きわめて密接な関連がある、ということになる。これを総合的に論じられる人というのは、今の日本でどれくらいいるのだろうか(あるいは、いないのか。)

高橋是清という人は、社会の人びとの経済にかんする心理をたくみに読みとっていた、ということになる。あるいは、経済を理解するためには、また、国家の財政をただすためには、経済学の理論だけではだめで、社会の人びとの心理を感じとり、それにどうはたらきかけるか、というものでなければならない……このように考える、政治家であった、ということでいいだろうか。

金解禁、金本位制、ということは、昔、歴史の教科書に出てきたことなので憶えているが、しかし、その当時の経済の実態に即して、どのような影響があり、どううけとめられていたのか、ということについては、ほとんど知らない。井上準之助についても、名前は知っているという程度である。

高橋是清のとった財政政策、時局匡救事業、緊縮財政を否定し、今でいえば公共事業による経済再建策ということになるのだろうが、これが、世界的に見てもかなり早い時期に、この政策がとられていた、ということは興味深い。また、この背景にあるものの考え方として、今でいう自己責任論の考え方にもとづくものであった。一時的なカンフル剤として、公共事業で資金を供給するが、それは、いつまでもつづけるべきものではない。援助にたよるようになってはいけない。地方も、それぞれに、経済的に自立しなければならない。無意味な救済は、間違った安心感を与えてしまう。このように考えていたらしい。

今日では、逆に、自己責任論よりも、富の再配分、弱者救済、という方向で、経済政策を語ることが多くなっている。これも、一つの時代の流れということになる。

高橋是清は、結果としては、軍の暴走……軍事費の拡大……ということを、おさえることができなかった。だが、これを、ただ高橋是清の責任にするということは、無理がある、ということになる。

財政の民主化が重要である。しかし、臨時軍事費特別会計、ということになってしまうと、もはや政府が軍をコントロールすることができなくなる。

ところで、この時代、昭和の初めごろであるが、農村の経済はどうだったのだろうか。極めて疲弊し、娘の身売りも行われた。一方で、都市部においては、かならずしも暗黒の時代であったということはなく、つかの間の平安なくらしを楽しむことができていた。このところの生活の感覚の落差を、もっとも敏感に感じとっていたのが、兵士の多くを地方の農村出身者でしめることになる陸軍の軍人たち(おそらくは、尉官クラスで、日常的に兵士たちに接する軍人たち)という理解でいいだろうか。

磯田道史が少しだけ言っていたことだが、この時代の、政府の収入の内訳はどうなっていたのだろうか。農村が疲弊する、ということは、(小作農の)年貢や税金が納められないということになるはずである。農村の疲弊は、国家財政にとって、どのように影響のあることだったのだろうか。

農村の疲弊はどうしようもないものであった、だからこそ、大陸の満州の新天地に、日本の未来を託すという考え方が生まれてきたのだろうとは思うが。

最後に磯田道史が言っていたが、国家レベルの倫理観、ということは、重要な観点だろう。これを具体的にいうならば、財政政策としてとられたものであっても、これはもらっちゃあいけないお金というものがある、ということである。

国家の財政を考えるとき、一時しのぎで助かるかもしれないが、その先の将来はどうなるのか、未来への責任感と、国民国家の市民としての経済倫理観、こういうことについて、考えなければならない……ということになるだろう。

2024年4月16日記

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2025/04/17/9769060/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。