おとなのEテレタイムマシン「日本の話芸(リストア版) 「くやみ」桂枝雀」 ― 2026-10-02
2026年10月2日 當山日出夫
おとなのEテレタイムマシン「日本の話芸(リストア版) 「くやみ」桂枝雀」
オリジナルは、1992年である。
この番組の前口上を小沢昭一が語っている。テレビの字幕をうつしておく。
「舌耕」という言葉が昔からあります
「舌で耕す」と書きます。
お百姓さんが田んぼや畑を耕して作物を作るように
舌で耕す稼ぎのことです。
舌でどこを耕すのか。人の心をです。
ひと言ひと言 人々の心の中を耕して
笑いと涙と いえ さまざまな感動の実りをもたらすのです。
時には生きる喜びさえも。
そういう言葉一筋の話芸を
お百姓さんの あのコツコツとやる仕事になぞらえて
「舌耕」といいました。
「日本の話芸」はそういう舌耕の名手をお招きします。
そして その人の芸に触れたことが
その時代を生きた喜びとなるような そういう話芸の名人を
あなたの心の中に宿して頂くために。
このごろ、朝、早く起きたら、テレビで録画してある、「日本の話芸」を見ることが多い。30分ほどの時間であるが、見ながらぼんやりしている。(といっても、どうしても、国語学の目で見てしまうところはあるが、これは、しかたがない。)
桂枝雀も、もう亡くなってかなりになる。
「くやみ」であるが、時と場合、場面によって、ことばの使い方、言い方が、いろいろとある。たしかにお葬式の場面で、大声で話すということもない。だが、おくやみのことばというのは、とても難しい。ここは、決まり切った定型のことばをなんとなく言っておくのが無難である。これも、いってみれば社会の伝統的な知恵である。そして、落語も、こういう作法をお客さんに教える場でもあったし、それでありながら、エンタテイメントにもなっている。
なんともうしあげてよろしいやら……と言っておけば、どうにか形になる。これはこれでいいことである。
桂枝雀の芸は、大仰なところが魅力でもある。しかし、この噺は、葬式のおくやみの場面であるので、そこが適当におさえぎみにしてある。そこのところが、絶妙に面白い。
見ながら気になったことばとしては、いくつかある。
たどん(炭団)が出てきていたが、枝雀がこれを演じた1992年だったら、かろうじて通じたことばだったかとも思うが、今では、もう無理だろう。炭、炭団、練炭、こういうものが、日常の生活か姿を消している。炭は、かろうじて、お茶の席か、うなぎ屋さんなどで使うことで残っている。
女性の歩く姿を、「あたまとおしりと七三にふって」「ぼうふら」というのは、今では使えない表現だろう。女性をそのような性的な目で見てはいけないことになっているし、ぼうふら、というのが日常の中から姿を消している。蚊はまだいるのだが、ぼうふらの姿を目にすることはなくなっている。
今日らみたいな。ここで、「ら」をはさむ言い方は、大阪弁に特有の言い方になるだろうか。
左官(さかん)のことを、しゃかん、といっている。「さ」と「しゃ」の交替形である。
はりしごと、裁縫のときに、つづくる、といっている。今の普通の言い方だったら、つくろいもの、ぐらいになるだろうか。
道具箱を担ぐことを、「かいて」(舁)といっている。いまでは使わなくなっている。
のろけの場面で、女将さんがお酒の酌をするときに、酌のしかたで酒の味が変わる、というのも、今の時代だったら、避けるべきところだろう。
長屋住まいでありながら、三味線が出てくるのは、この落語が出来たころ(いつかは知らないが)には、一般庶民の間に、かなり普及していたということになるだろう。
このしたでうそをつくのがにくい かんでやりたいときもある……こういうの言えるのも、落語の世界でのことである。
バカバカしいのろけ話である。総じて、桂枝雀は、手振り身振りが大きめである。観客にはっきりと分かるように、誇張した表現になっているのだが、そこが面白い。(あまり大げさにやるのはどうかなと思うところもあるけれど。)
おかみさんが、針仕事しながら……これは、手ぬぐいを使って手を動かしている……しゃべる。手を動かしながら、何かの動作をしながらしゃべる、こういうことが自然なこととして演じられているということに、改めて気づく。話芸とはいっても、それは見るもの、体全体で表現するものである。
2026年9月24日記
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