『ばけばけ』「カイダン、カク、シマス。」 ― 2026-03-22
2026年3月22日 當山日出夫
『ばけばけ』「カイダン、カク、シマス。」
この週で、八雲さんは帝大をクビになり、『怪談』を書くことになる。ちょっと内容として詰めこみすぎかなという感じがしなくもない。もう一週間あったなら、帝大でのことで一週間、『怪談』を書くことで一週間と、つかえてじっくりと描写できたかなと思う。
八雲さんは、帝大をクビになる。そのいきさつについては何も語られなかった。ここは、この時代の大学教育の事情について説明があった方がいいと思う。小泉八雲は、帝大で、英文学を教えていた。それが、クビになって、代わりに夏目金之助(漱石)が、講師として教えることになったというのは、常識的なことかと思う。
大学の教育としては、外国人お雇い教師から、日本人教師へと、切り替える時期になってきたということがあるし、また、帝国大学で教えることが求められたのは、英文学についてよりも、英語である、ということもある。夏目金之助の英国留学は、英語の習得のため、であった。
クビになった八雲さんは、帝大に通うふりをして、町の中のミルクホールで時間をつぶしていた。それに、司之介が気づいて、後をつける。ミルクホールでの、八雲さんと司之介の話しは、とても印象に残るものだった。
明治になって無用とされてしまった武士、帝大から必要ないと言われてしまった八雲、時代の変化のなかで、とりのこされ、たちすくむしかない。時代についていけない人間の情感をしみじみと描いていた。これは、八雲さんと司之介に限ったことではなく、松江の雨清水の人たちもそうである。
時代の変革、新しい価値観に気づかない方が悪いのである……と切ってすててしまうことは簡単なのだが、このドラマは、そういうことはしていない。(これまでの朝ドラの多くは、先進的な価値観で時代を切り拓くという方向の話しが多かった。)
クビになった八雲さんを、おトキは、とがめることはない。むしろ、よろこぶ。これで、時間が自由になって、好きな執筆の時間にあてられる。(だが、実際は、月に400円の給料がなくなったら、大変だと思う。それから、時代の変革期とはいえ、元の帝大の教師であった八雲さんに、まったく仕事が無かったとも思えない。歴史としては、小泉八雲は、早稲田大学に出講している。)
八雲さんとおトキは、散歩に出て、生まれかわったら何になりたいか、と話しをする。小泉八雲は、蚊になりたいと言ったはずだが、このエピソードを挟み込むのに、やや強引かなという気がする。日本的なアニミズム信仰ということになるし、これが、『怪談』の重要な要素になるのだが。
おトキは、八雲さんの、リテラリーアシスタントとして、町の中を歩きまわって、怪談を集める。このあたりのことは、おトキが本屋さんを回ったり、八雲さんに語って聞かせたり……ということで、エピソードがいろいろとあるところなのだが、かなり端折った感じになっていた。もうちょっとじっくりと『怪談』の成立について、描写するところがあってもよかったかもしれない。
おトキが自分にも読める本を書いてほしいといって、『怪談』になるのだが、ここは、もうワンステップの説明がほしかったところである。おトキが語った内容だから、おトキが十分に理解していて、それを八雲さんに口頭でつたえる、ということが、もうすこして丁寧な描写があってよかった。また、「耳なし芳一」の中の「開門(かいもん)」は、小泉セツが書き残しているところであり、これは、おトキが、話しを語るなかで、「開門」というシーンがあった方がよかったかと思う。襖を開けるときに、「開門」と言ってはいたのだが。
この週で印象的なのは、ミルクホールでの、八雲さんと司之介である。立場としては、司之介は、八雲さんの義理の父にあたる。こういう関係の男性どうしで、時代のうつりかわり取りのこされた悲哀を、語り合うという設定は、とてもいい。
また、場所がミルクホールということで、ミルクを飲んで髭に白く跡が残る。これは、松江での、司之介たちの長屋での一家のシーンであったり、その前の、東京で錦織の下宿でのことであったりと、ミルクを飲む場面が、印象的につかわれている。それをふまえて、ミルクホールということになっていたのだろう。この時代なら、いわゆるカフェとか喫茶店のような店であってもいいのだが、ミルクにこだわった脚本と演出は、上手くいったことになる。
2026年3月21日記
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