知恵泉「小泉八雲・セツ “怪談”異文化を越えた夫婦」 ― 2025-10-02
2025年10月2日 當山日出夫
知恵泉 小泉八雲・セツ “怪談”異文化を越えた夫婦
私が見た中では、NHKの小泉八雲関連の番組の二つ目である。
そう目新しい内容とか、切り口があるということではない。
やはり問題だと思うのは、『怪談』の執筆のことがメインになるとして、小泉八雲がこれを書いたのは、東京に住んでいたときのことである。小泉八雲が松江にいたのは、二年にも満たない。その後、熊本の第五高等学校で教え、神戸に行き、それから東京に行って、東京大学(東京帝国大学)、早稲田大学で教えている。
『怪談』は、東京に移ってから書いたものである。だが、番組を見ていると、小泉八雲は、ずっと松江に住んでいて、ここで『怪談』を書いたかのような印象をうける。はっきりそう言っているのではないので、番組としてウソを言っているということではないのだが。
小泉八雲が、聴覚と言語の身体性ということを重視した作家であったことは確かである。そのことを最も強く感じるのは、『日本の思い出』における松江の描写であったり、出雲大社の描写であったりする。番組の中では言っていなかったが、松江の朝、街中の物売りの声が聞こえることの描写は、『失われた時を求めて』(プルースト)を連想させる。
小泉八雲の耳の感覚がするどかったことは確かなのだが、だからといって、視覚が劣っていたわけではない。左目が見えず、右目も極度の近視ではあったのだが。書いた文章は、視覚の表現としても、非常に的確に日本の風景を描いている。
それから、この番組の趣旨ではないことになるのだが、小泉八雲の書いたものを読むと、明治のはじめのころの日本を礼讃するあまり、天皇への崇拝、御真影や教育勅語の礼讃……こういうことは、現代の日本の価値観からすると、否定的に見ることになるが……がある。こういう部分を、どのようにあつかうかは、小泉八雲について語るときの、一つの課題ではある。
また、『怪談』が、東京に住んでいるときに、妻のセツ(節子と書いた方がいいかもしれないが)が、古書店などで買ってきた、怪奇を記した書物によっている、ということなのだが、この時代にいったいどういう種類の怪奇の本が、一般に読まれたり書店で売られていたりしたのか。こういうことについて、文学史、書物史、という方面からはどれぐらい研究があることなのだろうか、と思うところである。
2025年10月1日記
知恵泉 小泉八雲・セツ “怪談”異文化を越えた夫婦
私が見た中では、NHKの小泉八雲関連の番組の二つ目である。
そう目新しい内容とか、切り口があるということではない。
やはり問題だと思うのは、『怪談』の執筆のことがメインになるとして、小泉八雲がこれを書いたのは、東京に住んでいたときのことである。小泉八雲が松江にいたのは、二年にも満たない。その後、熊本の第五高等学校で教え、神戸に行き、それから東京に行って、東京大学(東京帝国大学)、早稲田大学で教えている。
『怪談』は、東京に移ってから書いたものである。だが、番組を見ていると、小泉八雲は、ずっと松江に住んでいて、ここで『怪談』を書いたかのような印象をうける。はっきりそう言っているのではないので、番組としてウソを言っているということではないのだが。
小泉八雲が、聴覚と言語の身体性ということを重視した作家であったことは確かである。そのことを最も強く感じるのは、『日本の思い出』における松江の描写であったり、出雲大社の描写であったりする。番組の中では言っていなかったが、松江の朝、街中の物売りの声が聞こえることの描写は、『失われた時を求めて』(プルースト)を連想させる。
小泉八雲の耳の感覚がするどかったことは確かなのだが、だからといって、視覚が劣っていたわけではない。左目が見えず、右目も極度の近視ではあったのだが。書いた文章は、視覚の表現としても、非常に的確に日本の風景を描いている。
それから、この番組の趣旨ではないことになるのだが、小泉八雲の書いたものを読むと、明治のはじめのころの日本を礼讃するあまり、天皇への崇拝、御真影や教育勅語の礼讃……こういうことは、現代の日本の価値観からすると、否定的に見ることになるが……がある。こういう部分を、どのようにあつかうかは、小泉八雲について語るときの、一つの課題ではある。
また、『怪談』が、東京に住んでいるときに、妻のセツ(節子と書いた方がいいかもしれないが)が、古書店などで買ってきた、怪奇を記した書物によっている、ということなのだが、この時代にいったいどういう種類の怪奇の本が、一般に読まれたり書店で売られていたりしたのか。こういうことについて、文学史、書物史、という方面からはどれぐらい研究があることなのだろうか、と思うところである。
2025年10月1日記
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