『ひまわり』「第五章 可愛い子には旅をさせよ?」(6月22日~6月27日)2026-06-28

2026年6月28日 當山日出夫

『ひまわり』「第五章 可愛い子には旅をさせよ?」(6月22日~6月27日)

1996年の放送で、ちょうど30年前のことになる。この時代のドラマだなあ、と感じるところが随所にあるが、この週で感じることとしては、この時代に徹(父親)や赤松弁護士などの言う、「あの時代」(学生のころになるはずだが)ということが、暗黙の了解として、見るものに分かった時代でもある。これは、今の時代の若い人には、伝わらないことだろう。

個人的な思い出を言うならば、「あの時代」として思い出すのは、神代辰巳監督の『青春の蹉跌』である。こういう感覚は、ちょっとした年齢の違い、生まれ育った環境の違いなどで、微妙に、あるいは、大きく異なるところでもあるのだが。

この週で一番印象に残るのは、赤松弁護士が、社長(蟹江敬三)に和解をすすめることであり、その理由を語るところである。

社長は、医療ミスで亡くなった娘のために、担当した医師をとっちめてやらないと気がすまない、と言う。端的にいいかえるならば、復讐したいのである。

だが、それでは、本当に事件の解決として納得することにはならない。赤松弁護士が言ったことばを使うならば、人の心を救うということにはならない。また、これは、社長の奥さんの思っていることでもある。人間が復讐心のとりこになって鬼のようになることは、のぞんでいない。

こういう感覚は、現代では、薄れてしまったことかもしれない。近代的な刑事司法というのは、事件があったとして、その被害者が、加害者に対して復讐する権利を奪うことを基本としている。これが、私の、近代的な刑法についての理解である。復讐することを禁じる代わりに、司法の判断で、しかるべきペナルティを刑罰としてあたえる。これが、不満であるならば、刑法という法律を変えるしかない。そのための立法機関として、国会があり、議員がいる。

ここは、法律論というよりも、むしろ人間観の問題である。

ホッブズの『リヴァイアサン』を読むと、次のようなことを書いた一節がある……人間は、人を赦すときよりも、批判するときに正義を感じるものである、と。(むろん、17世紀の西欧のキリスト教の価値観を考慮する必要はあるはずだが、このことは、今の日本の社会においても、そのまま通用することと思って読んだところである。)

悪だと思うとしても、それに対する否定の気持ちだけ、復讐の気持ちのとりこになってしまっては、自分自身の心が救われない。これは、人間というものを、どんなものとしてとらえるかということにかかわる。

正義の実現のためにひたすら悪と戦うこともいいかもしれない。だが、それで人の気持ちはどうなるのか、という観点もあってよい。(法の正義の実現のためには、社会悪と戦い続けなければならないと言ったのは、末川博であるが。)

このあたりの描き方を見ると、以前の『虎に翼』での法律と人間のこととは、かなり、異なっている。はっきりいえば、『ひまわり』の方が、人間とはどういうものかということについて、より深いところでとらえている。

それから、このドラマを見て感じることの一つは、世代間の違いを、決して悪いことと描いていないことである。のぞみ・達也・純一郎などの世代、あづさ・赤松・徹などの世代、薰乃・うららなどの世代、これらにすれ違いがあり、対立することはあっても、古い/新しいという違いはあるとしても、善悪の判断をしていない。さまざまな世代の違いがあり、その世代がそういう考え方をするには生きてきた時代の影響のあることであり、それらが総合されてからまりあって、世の中ができている……このような感覚で描いてある。

こうして見ると、近年の朝ドラは、世代間の違いということを、あまり描かなくなってきたと感じる。特に私が見て、つまらないと感じた作品は、そうだったといっていいだろう。人間は、生まれ育った時代や環境によって考え方を形成する、この当たり前のことを、ドラマの中で、ややこしいものはややこしいままで、描くということができなくなってきている、というべきだろうか。あるいは、新しいことだけが正しいということにしなければならなくなってきている、ということだろうか。

2026年6月27日記

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