『遮断地区』ミネット・ウォルターズ2018-03-02

2018-03-02 當山日出夫(とうやまひでお)

遮断地区

ミネット・ウォルターズ.成川裕子(訳).『遮断地区』(創元推理文庫).東京創元社.2013
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488187101

東京創元社のHPには以下のようにある。

*第1位『ミステリが読みたい!2014年版』海外編
*第2位『このミステリーがすごい! 2014年版』海外編
*第3位『週刊文春 2013年ミステリーベスト10』海外編
*第2位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/翻訳家&評論家部門
*第4位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/総合部門
*第4位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/読者部門

かなり世間的な評価は高い作品である。出た時に買っておいて、積んであった本である。春休みということで、時間がとれるようになったので、分量のあるミステリを読んでおこうと思って読んだ。

めまぐるしく視点が転換する。登場人物も多い。そのせいもあってか、ストーリーがきちんと追い切れなかった。メインのストーリーとしては、英国において、下層の人びとの暮らす団地で起こったデモ(あるいは暴動といった方がいいか)、その暴動にまきこまれた女性医師、その暴動にかかわることになった幾人かの人びと、それから、ある少女の行方不明事件、などである。これらのいくつかの視点を切り替えながら、団地で起こった暴動の顛末を描写してある。

この作品を読んだ正直な感想を述べれば……昨今いわれるようになった性的少数者と、その対極にある性的変質者、この境目のグレーゾーンはいったいどんなものなのだろうか、ということである。小児性愛は、犯罪であることになる。だが、この小説に描かれる登場人物には、そのような犯罪者的な感じはほとんどない。

暴動のきっかけは、団地に小児性愛者が住んでいるという情報からはじまる。一般的には、一般市民の反感をかうことになる変質者である。だが、読んでいくと、特に変態、犯罪者という印象ではない。むしろ、特殊な性的嗜好をもった特異な一部の人間という感じである。

この作品の描いているのは、社会における少数者……本作では、性的嗜好における少数者ということなろうが……に対して、一般市民の反感がたかまったとき、制御しきれない暴動になり得る、そこにある正義とは何か、ヒューマニズムとは何か、という問いかけであるように思える。

ミステリ、犯罪小説という形でえがいた、現代社会の世相の一端ということになるだろうか。また、これは、ミステリ、犯罪小説という形式をとらなければ描けないテーマであるともいえる。まさに現代社会のかかえるある種の問題をミステリという形式で描き出した作品であることにはちがいない。

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_ じゅうのblog - 2018-04-18 19時59分24秒

イギリスの作家「ミネット・ウォルターズ」の長篇ミステリ作品『遮断地区(原題:Acid Row)』を読みました。
[遮断地区(原題:Acid Row)]

「ディック・フランシス」(「フェリックス・フランシス」との父子共著含む)に続きイギリスのミステリ作品です。

-----story-------------
バシンデール団地に越してきた老人と息子は、小児性愛者だと疑われていた。
ふたりを排除しようとする抗議デモは、彼らが以前住んでいた街で十歳の少女が失踪したのをきっかけに、暴動へ発展する。
団地は封鎖され、石と火焔瓶で武装した二千人の群衆が襲いかかる。
医師の「ソフィー」は、暴徒に襲撃された親子に監禁されて……。
現代英国ミステリの女王が放つ、新境地にして最高傑作。
解説=「川出正樹」

*第1位『ミステリが読みたい!2014年版』海外編
*第2位『このミステリーがすごい! 2014年版』海外編
*第3位『週刊文春 2013年ミステリーベスト10』海外編
*第2位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/翻訳家&評論家部門
*第4位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/総合部門
*第4位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/読者部門
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2001年(平成13年)に出版された社会派ミステリーの問題作… 翻訳されたのは12年後の2013年(平成25年)のようですね、、、

「ミネット・ウォルターズ」の作品は初めて読みましたが、サスペンスフルでスピーディーな展開が愉しめました… 実際に、こんな暴動が発生すれば、イギリスの警察組織が、もっと早く解決してくれると思いますけどね。

教育程度が低く、ドラッグが蔓延し、争いごとが日常茶飯事である通称アシッド・ロウ(LSD街)と呼ばれるバシンデール団地に小児性愛者が入居して来た事実がナイチンゲール医療センターの巡回保健師「フェイ・ボールドウィン」の口から住民の一人でシングルマザーの「メラニー・パタースン」に漏れる… 身の危険を感じた「メラニー」は母「ゲイナ」とともに変質者を団地から追い出すデモを計画、やがて、その噂が広まり、引っ越して来たばかりの老人「フラネク・ゼロウスキー」と息子「ミーローシュ・ゼロウスキー」をターゲットにしが群衆デモへ発展する、、、

そして、彼らが住んでいた街で十歳の少女「エイミー・ビダルフ」が失踪した事件が発生し、「フラネク」と「ミーローシュ」に誘拐の疑惑を抱いた、「ケヴィン・チャータズ」、「ウェズリー・バーバー」等を中心とした凶暴な若者達が暴走して、地域の出入り口をバリケードで封鎖し外界をシャットダウンしたうえに石と火炎瓶で襲撃しようと企む… この排斥デモに端を発する大暴動と、その引き金となった近隣の中産階級向け住宅で発生した「エイミー」の失踪事件の顛末が、分刻みで刻々と変わる局面を頻繁に視点を切り替えて多角的に、そして、臨場感豊かに描きあげられていましたね。

愛する子どもたちの安全を願って始めらたはずの平和的なデモが、いつの間にかコントロール不能な暴力行為へと変貌し、悲惨な結末に突き進みます、、、

「フラネク」と「ミーローシュ」の家を往診のために訪ねていた女医「ソフィー・モリスン」が暴動の発生とともにそのまま部屋に閉じ込められ、思わぬ暴行の犠牲となって血まみれの身体でも何とか抵抗して行くヴァイオレンスの色濃いサスペンスと、刑務所帰りで真面目に更正して生きて行こうと考える黒人青年「ジミー・ジェイムズ」が恋人「メラニー」を助ける為に危険地帯へ乗り込んで行く身体を張った活躍の大迫力に満ちたシーンが印象的でしたね… 悪の道から立ち直り、懸命に奮闘する「ジミー」の活躍には、感情移入しちゃいましたね。

冒頭で読者に提示される「5時間にわたる暴動で死者3名、負傷者189名」という新聞の見出し… それによって、死んでしまう3人って誰なんだろう? というのを気にしながら読み進む展開も面白かったな。

惨い暴力や無意味で虚しい死もありますが… 全体としては救いのあるまとめ方をしてあり好感が持てましたね、、、

でも、同時に進行する「エイミー」の行方を追う捜査の模様は、アシッド・ロウの暴動に比べると、やや盛り上がりに欠けましたね… 徐々に明らかになる機能不全に陥った親子関係が理解できなかったからかも。

そして、終盤でのワンシーン、、、

凛とした元看護婦の老女「アイリーン・ヒンクリー」が、「ジミー」に対して発する「人はその行動で判断されるの」という言葉が印象に残りました… 良い言葉ですね。



以下、主な登場人物です。

「ソフィー・モリスン」
 ナイチンゲール医療センターの医師

「フェイ・ボールドウィン」
 ナイチンゲール医療センターの巡回保健師

「ジェニー・モンロウ」
 ナイチンゲール医療センターの受付係

「ハリー・ボンフィールド」
 ナイチンゲール医療センターのシニア・ドクター

「ボブ・スカダモー」
 ソフィーの婚約者。精神科医

「メラニー・パタースン」
 シングルマザー

「ゲイナ・パタースン」
 メラニーの母

「コリン・パタースン」
 メラニーの弟

「ジミー・ジェイムズ」
 メラニーの恋人

「ケヴィン・チャータズ」
 コリンの友人

「ウェズリー・バーバー」
 不良少年

「エイミー・ビダルフ」
 十歳の少女

「ローラ・ビダルフ」
 エイミーの母

「グレゴリー・ローガン」
 ローラの同棲相手

「キムバリー・ローガン」
 グレゴリーの娘

「バリー・ローガン」
 グレゴリーの息子

「マーティン・ロジャスン」
 ローラの夫。弁護士

「エドワード・ダウンゼンド」
 宅地開発業者

「ドリー・カーシュー」
 バシンデール団地の住人

「アイリーン・ヒンクリー」
 バシンデール団地の住人

「アーサー・ミラー」
 バシンデール団地の住人

「タイラー」
 ハンプシャー州警察の刑事

「ゲアリー・バトラー」
 ハンプシャー州警察の部長刑事

「ケン・ヒューイット」
 ハンプシャー州警察の巡査

「ウェンディ・ハンソン」
 ハンプシャー州警察の婦警

「ミーローシュ・ゼロウスキー」
 小児性愛者

「フラネク・ゼロウスキー」
 ミーローシュの父