米窪明美『明治天皇の一日』 ― 2016-05-29
2016-05-29 當山日出夫
米窪明美の本について、いささか。
米窪明美.『明治天皇の一日-皇室システムの伝統と現在-』(新潮新書).新潮社.2006
http://www.shinchosha.co.jp/book/610170/
米窪明美.『明治宮殿のさんざめき』(文春文庫).文藝春秋.2013(原著.2011.文藝春秋)
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167838782
著者の経歴を見ると興味深い。まず、「学習院大学文学部国文科卒」。これは普通だろう。その次がすごい。「学習院女子中等科の非常勤講師として作法を教えている」。へえ、さすが学習院。「作法」なんてな授業があるんだと感心してしまう。それから、NHKの『坂の上の雲』の宮廷関係の歴史考証、とある。これは、さらにすごい。
NHKの『坂の上の雲』は、私は見ている。実をいえば、再放送をふくめて、おまけに録画して、何度も見ている。(残念ながら、テレビのHDの録画容量の関係で今では消してしまったのだが。)
『坂の上の雲』の宮中シーン……テレビを見ているときは、あんなものかなあと思ってみていた。強いて言えば、明治天皇がきわめて女性的なイメージで描いてあったのが印象的である。明治天皇といえば、その今に残る写真からして、武断的な印象がつよいのだが、それは、近代日本が必要とした天皇のイメージであるということになる。
さらに言えば、明治国家によって作られた明治天皇のイメージ……「武」の側面を強く前面におしだした……そして、昭和天皇のイメージ……白馬にまたがった大元帥としの姿……このようなイメージは、天皇・皇室の意思とは別に、近代日本国家によって「つくられた」ものでもある。
といって、筆者(米窪明美)は、政治史については、まったく語っていない。近代天皇制の政治的な方面については、触れてはいない。ただ、書いてあるのは、明治天皇の一日がどのようにすぎているか(『明治天皇の一日』)、あるいは、明治宮殿が一年にどんな行事をむかえていたか(『明治宮殿のさんざめき』)である。
だから、面白い。どんなところに寝ていて、いつ起きて、どんな食事をして、いつ仕事をして、どんな遊びがあって……日常のできごとを描いてある。しかし、想像ではない。あくまでも、歴史考証として、文献史料にのっとっての記述である。
たとえば、朝、天皇が目覚めると、「おひーる」「申しょー、おひるでおじゃーと、申させ給う」……と、伝言ゲームのように、次から次へと伝えていく。そして、御内儀(おないぎ)と表との区別。などなど、次々へと興味つきない話しの連続である。
そして、わかることは、明治の天皇制の、新しさと古さである。
言うまでもなく明治になるまで、天皇は京都にいた。それが、明治になって東京にうつって、旧江戸城を、皇居として住まいするようになる。それは、明治の近代国家日本のスタートと歩調をあわせてのものである。いや、そうではなく、明治国家が必要とした天皇のイメージに沿って、天皇のシステムも構築されていったと言った方がよいかもしれない。
しかし、その一方で、旧態依然として、京都の時代からの宮廷の作法・儀式を残している面もある。
これは、今上天皇の姿を見ても容易に想像がつく。テレビなどで目にする御公務などは、西洋式である。もちろん、天皇は、洋服を身にまとっている。皇后陛下、その他皇族方も同様である。
だが、宮中の儀式として、古来からの「伝統」を残しているところもある。私の世代なら、今上天皇の即位の礼の時を思い出す。あるいは、秋篠宮の結婚式のときの様子など。紀子様が、いわゆる十二単の衣装であったことを記憶している。
西洋式でありながら、同時に、平安時代を彷彿させるような「伝統的」な姿、これは、どのようにして形成されてきたものなのであろうか。
米窪明美の本(明治天皇について)は、政治関係のことは一切言及していない。しかし、だからこそと言ってよいであろうか、明治国家になってからどのような天皇が日本にとって必要であったのか、が浮き上がってくる。
近代国家日本、明治天皇、天皇制……このような論点については、様々な意見・立場あることは承知しているつもりである。この意味からは、近代天皇がどのように形成されてきたものなのか、天皇はいったい「日常で」何をしていたのか、これについて知っておくことは、議論をすすめるうえで、必要なことでもあろう。
著者(米窪明美)は、昭和天皇(その昭和20年)についても書いている。それについては、また改めて書いてみることにしよう。ともあれ、明治天皇についての本は、(少なくとも歴史に興味関心のあるひとにとっては)面白いものであると思う次第である。
米窪明美の本について、いささか。
米窪明美.『明治天皇の一日-皇室システムの伝統と現在-』(新潮新書).新潮社.2006
http://www.shinchosha.co.jp/book/610170/
米窪明美.『明治宮殿のさんざめき』(文春文庫).文藝春秋.2013(原著.2011.文藝春秋)
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167838782
著者の経歴を見ると興味深い。まず、「学習院大学文学部国文科卒」。これは普通だろう。その次がすごい。「学習院女子中等科の非常勤講師として作法を教えている」。へえ、さすが学習院。「作法」なんてな授業があるんだと感心してしまう。それから、NHKの『坂の上の雲』の宮廷関係の歴史考証、とある。これは、さらにすごい。
NHKの『坂の上の雲』は、私は見ている。実をいえば、再放送をふくめて、おまけに録画して、何度も見ている。(残念ながら、テレビのHDの録画容量の関係で今では消してしまったのだが。)
『坂の上の雲』の宮中シーン……テレビを見ているときは、あんなものかなあと思ってみていた。強いて言えば、明治天皇がきわめて女性的なイメージで描いてあったのが印象的である。明治天皇といえば、その今に残る写真からして、武断的な印象がつよいのだが、それは、近代日本が必要とした天皇のイメージであるということになる。
さらに言えば、明治国家によって作られた明治天皇のイメージ……「武」の側面を強く前面におしだした……そして、昭和天皇のイメージ……白馬にまたがった大元帥としの姿……このようなイメージは、天皇・皇室の意思とは別に、近代日本国家によって「つくられた」ものでもある。
といって、筆者(米窪明美)は、政治史については、まったく語っていない。近代天皇制の政治的な方面については、触れてはいない。ただ、書いてあるのは、明治天皇の一日がどのようにすぎているか(『明治天皇の一日』)、あるいは、明治宮殿が一年にどんな行事をむかえていたか(『明治宮殿のさんざめき』)である。
だから、面白い。どんなところに寝ていて、いつ起きて、どんな食事をして、いつ仕事をして、どんな遊びがあって……日常のできごとを描いてある。しかし、想像ではない。あくまでも、歴史考証として、文献史料にのっとっての記述である。
たとえば、朝、天皇が目覚めると、「おひーる」「申しょー、おひるでおじゃーと、申させ給う」……と、伝言ゲームのように、次から次へと伝えていく。そして、御内儀(おないぎ)と表との区別。などなど、次々へと興味つきない話しの連続である。
そして、わかることは、明治の天皇制の、新しさと古さである。
言うまでもなく明治になるまで、天皇は京都にいた。それが、明治になって東京にうつって、旧江戸城を、皇居として住まいするようになる。それは、明治の近代国家日本のスタートと歩調をあわせてのものである。いや、そうではなく、明治国家が必要とした天皇のイメージに沿って、天皇のシステムも構築されていったと言った方がよいかもしれない。
しかし、その一方で、旧態依然として、京都の時代からの宮廷の作法・儀式を残している面もある。
これは、今上天皇の姿を見ても容易に想像がつく。テレビなどで目にする御公務などは、西洋式である。もちろん、天皇は、洋服を身にまとっている。皇后陛下、その他皇族方も同様である。
だが、宮中の儀式として、古来からの「伝統」を残しているところもある。私の世代なら、今上天皇の即位の礼の時を思い出す。あるいは、秋篠宮の結婚式のときの様子など。紀子様が、いわゆる十二単の衣装であったことを記憶している。
西洋式でありながら、同時に、平安時代を彷彿させるような「伝統的」な姿、これは、どのようにして形成されてきたものなのであろうか。
米窪明美の本(明治天皇について)は、政治関係のことは一切言及していない。しかし、だからこそと言ってよいであろうか、明治国家になってからどのような天皇が日本にとって必要であったのか、が浮き上がってくる。
近代国家日本、明治天皇、天皇制……このような論点については、様々な意見・立場あることは承知しているつもりである。この意味からは、近代天皇がどのように形成されてきたものなのか、天皇はいったい「日常で」何をしていたのか、これについて知っておくことは、議論をすすめるうえで、必要なことでもあろう。
著者(米窪明美)は、昭和天皇(その昭和20年)についても書いている。それについては、また改めて書いてみることにしよう。ともあれ、明治天皇についての本は、(少なくとも歴史に興味関心のあるひとにとっては)面白いものであると思う次第である。
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