『豊臣兄弟!』「信長上洛」 ― 2026-03-16
2026年3月16日 當山日出夫
『豊臣兄弟!』「信長上洛」
こういう作り方のドラマだということは理解できるつもりだが、なんだか、歴史の年表を見て、ところどころで、実はこうだったと種明かしを挟んである、というのは、はっきりいって、あまり面白いとは感じない。これは、人にもよるだろうが。
このドラマでは、こまかな人間の感情の起伏や流れということを描かない。人間関係が、登場人物一覧の系図以上のものになっていない。たぶん、意図的に、深く人間の心理を描くことはしないということで作っていることになる。といって、戦国時代の武将たちが知謀の限りを尽くしているということもない。
信長が「天下布武」の印を使っていることは知られているし、その意味をどう考えるか、京の都を中心として五畿内を平定することであったのか、それとも、日本全土(この時代だから、北海道と琉球は除くことになるが)を手中におさめるのか、議論のあるところになっている。この回のはじまりが、「天下布武」の意味を、京を中心とした支配ということで言っていたのだが、これはどうみても、諸説ある、としなければならないところだろうと思って見ていた。それを、最後のところで、ひっくりかえして信長の意図は、全国の統一であるという方向に向かうということにしてあった。戦国時代について、ちょっと知識があれば、脚本の意図は分かるところかと思うが、しかし、話しの運び方が急である。
見る人が、歴史の知識があることを前提にしているかと思われる一方で、無理をしていると感じるところもある。
疑問に思ったところとしては、お市が、小一郎に手紙の代筆、あるいは、草案を依頼する場面。この時代の文書(書簡)としては、男性の武将が書く(発給する)ものと、女性が書くものとでは、目的も、書式も、内容も、違う。何よりも、女性の書く文字が、男性とは違う。どう考えても、設定として無理がある。
また、終わりの方で、信長が上洛の後、各地の大名たちに文書を送ったかと確認する場面があったが、これはどうだろうか。この時代にこういう文書を送るとするならば、その案を右筆が起草するとしても、信長自身が目をとおすかと思うし、何よりも、信長自身の花押が必要になる。歴史学、古文書学の現在の研究では、信長が、こんな文書を書いて送れ、と命令しただけで、それでことがはこんだということになっているのだろうか。
信長の花押が自身が書いたものかどうか、ということは、現在では史料として、どう考えることになるのだろうか。
明智光秀と足利義昭が岐阜にやってきた場面も、ドラマのようであってもいいかと思うが、どうかなと思うところでもある。始めて岐阜にやってきただろう光秀と義昭であるならば、信長に面会するより先に、岐阜の城下の様子を偵察する、その規模や人びとの暮らしぶりや市場にある商品など、これらを観察することで、信長の大名としての実力を見極めてから、ということの方が、戦国時代ドラマとしては、自然だろう。もちろん、岐阜城の作り方をじっくりと観察する場面もほしい。
さらに思うこととしては、秀吉の住まいには畳がある。信長の岐阜城の広間は畳敷きである。だが、それ以外は、板の間に作ってある。明障子とか、畳の部屋とか、この時代には、どれぐらい普及していたのだろうか。(撮影の都合上、明障子があることにしないと、部屋の中が暗くなってしまうということがあってかとも思うのだが。)
どんなに荒廃した京の街であっても、そこに将軍がいることに意味がある、ということなのかとも思う。であるならば、この時代に、京の街にいなければならなかったのは、何よりも天皇である。天皇がいるからこそ京の町である。こういう視点は、日本史をかんがえるうえで、重要なことだと思うが、このドラマではどうなるだろうか。
終わりのところで、秀吉たちは、京の町で、銭をばらまいていた。荒れ果てた京の町の人びとにとっては、銭があっても買うものがない、ということかもしれない。銭による現金給付よりも、食べるもの着るものの現物給付の方が、効果的かもしれない。まあ、非常に現代的な考え方であるが。(戦禍のガザ地区に空からドル紙幣をまいても意味がないだろう、それよりも食料品であるべきだった、というようなことを考えてもいいかとも思う。)
戦国時代のオールスタードラマという雰囲気になってきた。この時代を生きた人間としての、こまやかな感情のやりとりということには、どうもならないようである。
2026年3月15日記
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2026/03/16/9842347/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。