『隣りの女』向田邦子2021-01-08

2021-01-08 當山日出夫(とうやまひでお)

隣の女

向田邦子.『隣りの女』(文春文庫).文藝春秋.2010(文藝春秋.1981 文春文庫.1984)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167277222

続きである。
やまもも書斎記 2021年1月7日
『霊長類ヒト科動物図鑑』向田邦子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/01/07/9335113

文春文庫版で向田邦子を読んでいる。これは、短編小説集。

収録してあるのは、
「隣りの女」
「幸福」
「胡桃の部屋」
「下駄」
「春が来た」

どれも短い作品だが、巧い。テレビのドラマを書くことで培ったであろう、ごく日常的な風景のなかに揺れうごく人間の感情の機微を描いている。読みながら、もしこれがテレビドラマであったなら、こんなシーンになるのだろうか、と創造しながら読んでしまうことになる。

向田邦子は、エッセイで有名になり、小説を書くようになって、そう多くを書かないうちに、飛行機事故で亡くなってしまった。私が大学院の学生のころだったろうか。その死亡のニュースに接して、ある種の感慨を覚えたことを記憶している。

向田邦子の本のかなりは読んでいたつもりであるが、この本は読んでいなかったと思う。

この本のなかの作品に出てくる登場人物は、どれも市井の人物……ごくそこいらに普通にいるような人びとである。ただ、その人生がちょっと屈折していたりする。とはいっても、そんなに大きな不幸をかかえているというのでもない。ちょっとした生活のなかの傷のようなものがある。その傷が、ふと外の風にふれてうずくような、そんな感覚を見事に描写している。

私にとって、向田邦子は、エッセイストであったのだが、小説家としてもすぐれた仕事を残した人であったことを、改めて認識することになった。惜しい人であった、今になったそう思うことしきりである。

2021年1月3日記

追記 2021-01-09
この続きは、
やまもも書斎記 2021年1月9日
『眠る盃』向田邦子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/01/09/9335851

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