BS世界のドキュメンタリー「北極が溶けるとき 温暖化が招く新たな対立」2025-12-04

2025年12月4日 當山日出夫

BS世界のドキュメンタリー「北極が溶けるとき 温暖化が招く新たな対立」

再放送を録画しておいて見た。今のNHKONEのHPでは、いつの放送か確認できないみたいなのだが、オリジナルは、2024年、イギリスである。

トランプ大統領が就任してすぐに、グリーンランドをアメリカのものにする、ということを言い出して、日本のいわゆるリベラルと自称する人たちから、冷笑をあびせられていた。そういう人たちにとっては、誇大妄想としか思えなかったのだろう。

だが、私は、このニュースを非常に意味のあるものとして見ていた。一番興味深かったのは、グリーンランドを領有するデンマークの首相が、即座に拒否しなかったことである。普通なら、とんでもないこととにべもなくはねつけることのように思えることかもしれない。しかし、デンマーク首相は、グリーンランドは自治領であり、それはグリーンランドの人びとが決めることだ、という意味の発言をしていた。

トランプ大統領なりの乱暴な表現であったかと思うが、しかし、ことの流れとしては、アメリカは、これから北極海に対する軍事的なプレゼンスを強めていく、そのためには、グリーンランドが重要な戦略的な場所になる、これからこの地域への関与を強める……こういうことの意志表明だととれば、非常に納得のいくことである。(このことが理解できなかった、今の日本の、いわゆるリベラルを自称する人たちは、地球儀を持っていないらしい。)

ロシアのウクライナ侵攻が、世界の政治の地図を塗り替えた。そして、北極海が、将来において、新たな地政学的に、重要な意味を持つようになる。北極海航路、水産資源、レアアース、どれをとっても、国際秩序の再編をせまる問題である。

その原因になっているのが、地球温暖化による北極海の氷の減少である。

特に北欧の国々が、新たな対ロシア、北極海の安全保障の最前線に位置することになり、それとNATOが密接にかかわっている。軍事的には、常識的なことだと思う。

番組の中で、中国も、北極海への権益を主張していると言っていた。これは、重要なことである。中国が北極海に出ようとするならば、まず太平洋に出なければならないが、そこには日本がある。

今は、いわゆる台湾有事をめぐって議論がさかんであるが、それよりも、もう少し先のことを考えるならば、中国の北極海への進出と権益の主張に、日本がどうかかわるのか、ということがあり、それを視野にいれて、いわゆる台湾有事のことも考えられねばならないことになる。

日本で、原子力潜水艦の保有が話題になりつつあるが、それは、台湾周辺、東シナ海よりも、北極海を念頭に考えることなのだろうと、私は思っている。空母を北極海で運用するのは容易ではない、原子力潜水艦が重要な戦略的、戦術的な意味を持つことになるだろう。

番組の中で、日本への言及は一言もなかった。しかし、北極海の安全保障ということを考えるならば、日本とNATOのとの連携は、必須ということになる。おそらく水面下では、この動きはあるにちがいないが。

もちろん、日本のインフラとして、周辺の海底ケーブルの防衛は、何より重要である。

ロシアの北極海への覇権について、警鐘を鳴らしていたのは、小泉悠であるが、このごろでは、テレビなどで、このことについて語ることは無くなっているようである。あるいは、それだけ、事態が逼迫している(安易にコメントできない)ことなのかと、思うのであるが。

なお、NHKは、アメリカ領であるセントローレンス島を取材した番組を作っている。表向きは、現地に居住する先住民の人たちの生活のドキュメンタリーということであったが、こととしだいによっては、ここは、アメリカとロシアの、北極海の覇権をめぐる最前線基地になる。それを見こして、取材のカメラがはいったということなのだろうと思っている。

2025年11月29日記

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