『スティール・キス』ジェフリー・ディーヴァー2017-11-04

2017-11-04 當山日出夫(とうやまひでお)

ジェフリー・ディーヴァー.池田真紀子(訳).『スティール・キス』.文藝春秋.2017
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163907444

毎年、読むことにしている。ジェフリー・ディーヴァーの新作は、出れば買っている。これは、『ボーン・コレクター』を買った……今から考えてみればたまたまであったのだが……それ以来の習慣のようなものである。待っていれば、文庫版(文春文庫)になる。しかし、文庫版になったところでそう安くなるということもないので、単行本が出た時に買っている。

また、ジェフリー・ディーヴァーの作品は、その時代の最先端の時事的な問題をネタにしたものが多いので、新鮮味のあるうちに読んでおいた方がいい。

今回のテーマは、「IoT」。それに対するハッキング。(まあ、ここのところまでは書いていいだろう。)

これを読むと、確かに、ミステリとしては一級のしあがりになってはいるのだが、しかし、ちょっと無理があるような気がしてならない。サイバー犯罪については、リンカーン・ライムのような、科学的(主に、化学、物理の分野)の捜査が通用しない。それを、無理に、犯人に物証を残させるようなストーリーの展開になっている、と感じるところがある。でなければ、リンカーン・ライムの科学的な捜査手法の出る場面がない。

このような不満めいたところが少しあるとはいうものの、今の時代、これからの時代の生活に必須になる、モノとインターネットの世界の問題を、この作品は描いている。

そして、メインの犯罪となる以外に、サブのストーリーとして、いくつかの物語が展開する。これも、巧妙に作品におりこまれていて、読ませるものになっている。

ところで、このリンカーン・ライムのシリーズを読むと、いつも感じるのは、「PC」(政治的な正しさ)ということ。『ボーン・コレクター』から、ずっと読んできているのだが、特に、このリンカーン・ライムのシリーズは、「PC」の側面をつよく出した語り口になっている。現代のアメリカ社会のある側面を、描いている作品になっているとはいえる。