らじる文庫「人見絹枝の自伝」 ― 2021-08-14
2021-08-13 當山日出夫(とうやまひでお)
このところ、まとまって本を読む時間がとれないので……夏の多忙な時期ということもあり、また、CVOVID-19のこともあり……PCでラジオを聞いている。
ラジオは、ラジオで聞くものだと思っているのだが、しかし、インターネットのおかげで、聞き逃し配信を、過去にさかのぼってきけるようになっている。これはありがたい。NHKを朗読をキーワードに検索するといろいろと出てくる。なかで気に入ったのが、「らじる文庫」である。
らじる文庫
https://www.nhk.or.jp/radio/audiobook/
今聞くことができるものとしては、「岡本かの子「食」に関する随筆」「山本周五郎の随筆」「夏の随筆」「人見絹枝の自伝」「野口米次郎随筆「梅雨」」などがある。どれも、おそらく、このシリーズの中に入っていなければ知らずに過ぎてしまっただろう作品ばかりである。
このうち「人見絹枝の自伝」が面白かった。人見絹枝は、オリンピックにおける日本で初の女性のメダリストということで知ってはいた。また、先年のNHK大河ドラマ「いだてん」にも登場していた。だが、それ以外のことは、ほとんど知らなかったといってよい。
この自伝の文章を聞いて(この場合、「読んで」とは書きにくい)……人見絹枝が高等女学校を出てから新聞社につとめた、最初女性スポーツ記者であったことを知った。無論、戦前のことである。スポーツの世界は、アマチュアリズムの時代でもある。女性記者をしながら、陸上にはげんでいた。
オリンピックに出場するのも、その費用は寄付によるしかなかった。そして、出場したオリンピックで、本来の種目である一〇〇メートルで敗退する。このままでは日本に帰れないと思った彼女は、八〇〇メートルにいどみ、そして銀メダルになる。
このオリンピックのことを軸に、競技にかける思いや、故郷の日本のことなど、実に率直に綴られている。文章としても非常にいい。(これは、NHKのアナウンサーが読んでいるので、そのうまさということもあるのだが。)
日本に帰った人見絹枝は、残念なことにまもなく病死することになる。(このことも、このラジオを聞いて知った。)
たぶん、放送の企画としては、今年のオリンピック開催にあわせたものだったろうと思う。私の場合、今年の東京オリンピックを、そんなにテレビを見るということもなくすごしてしまった。たまに、テレビをつけると、どの局もオリンピックしか放送していないので、たまたま見てしまうというようなことである。
オリンピックでメダルをとることの意味は、時代や国家、おかれた環境によって違う。人見絹枝の場合、今よりももっと国家の重圧というものがあったかと感じられる。しかし、そのような重圧があるとしても、遠い異国にあって、その地の風光のなかですごし、日本のことを思い、また、自らの競技のことを思っている。その感覚は、時として、非常に繊細である。
オリンピックは、様々なドラマを生んできた。そのなかにあって、人見絹枝の残した文章は、これからも読み継がれていく価値のあるものだと思う。
2021年8月12日記
このところ、まとまって本を読む時間がとれないので……夏の多忙な時期ということもあり、また、CVOVID-19のこともあり……PCでラジオを聞いている。
ラジオは、ラジオで聞くものだと思っているのだが、しかし、インターネットのおかげで、聞き逃し配信を、過去にさかのぼってきけるようになっている。これはありがたい。NHKを朗読をキーワードに検索するといろいろと出てくる。なかで気に入ったのが、「らじる文庫」である。
らじる文庫
https://www.nhk.or.jp/radio/audiobook/
今聞くことができるものとしては、「岡本かの子「食」に関する随筆」「山本周五郎の随筆」「夏の随筆」「人見絹枝の自伝」「野口米次郎随筆「梅雨」」などがある。どれも、おそらく、このシリーズの中に入っていなければ知らずに過ぎてしまっただろう作品ばかりである。
このうち「人見絹枝の自伝」が面白かった。人見絹枝は、オリンピックにおける日本で初の女性のメダリストということで知ってはいた。また、先年のNHK大河ドラマ「いだてん」にも登場していた。だが、それ以外のことは、ほとんど知らなかったといってよい。
この自伝の文章を聞いて(この場合、「読んで」とは書きにくい)……人見絹枝が高等女学校を出てから新聞社につとめた、最初女性スポーツ記者であったことを知った。無論、戦前のことである。スポーツの世界は、アマチュアリズムの時代でもある。女性記者をしながら、陸上にはげんでいた。
オリンピックに出場するのも、その費用は寄付によるしかなかった。そして、出場したオリンピックで、本来の種目である一〇〇メートルで敗退する。このままでは日本に帰れないと思った彼女は、八〇〇メートルにいどみ、そして銀メダルになる。
このオリンピックのことを軸に、競技にかける思いや、故郷の日本のことなど、実に率直に綴られている。文章としても非常にいい。(これは、NHKのアナウンサーが読んでいるので、そのうまさということもあるのだが。)
日本に帰った人見絹枝は、残念なことにまもなく病死することになる。(このことも、このラジオを聞いて知った。)
たぶん、放送の企画としては、今年のオリンピック開催にあわせたものだったろうと思う。私の場合、今年の東京オリンピックを、そんなにテレビを見るということもなくすごしてしまった。たまに、テレビをつけると、どの局もオリンピックしか放送していないので、たまたま見てしまうというようなことである。
オリンピックでメダルをとることの意味は、時代や国家、おかれた環境によって違う。人見絹枝の場合、今よりももっと国家の重圧というものがあったかと感じられる。しかし、そのような重圧があるとしても、遠い異国にあって、その地の風光のなかですごし、日本のことを思い、また、自らの競技のことを思っている。その感覚は、時として、非常に繊細である。
オリンピックは、様々なドラマを生んできた。そのなかにあって、人見絹枝の残した文章は、これからも読み継がれていく価値のあるものだと思う。
2021年8月12日記
コメント
_ 轟亭 ― 2021-08-14 10時20分38秒
「いだてん」で人見絹枝を演じた菅原小春が、今、朝ドラの「おかえりモネ」で車いすマラソン選手鮫島祐希をやっていますね。
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