『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー/鈴木恵(訳)2022-12-27

2022年12月27日 當山日出夫

われら闇より天を見る

クリス・ウィタカー.鈴木恵(訳).『われた闇より天を見る』.早川書房.2022
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今年のミステリ(海外)のベストと言っていい作品である。

すぐれたミステリというのは、読み終えてから冒頭を読みなおしてみたくなる。そして、この作品は、最後まで読んでから、冒頭を読みなおすと……ああ、こんなことが書いてあったのかと、驚く。

それにしても、このような作品を何と言えばいいのだろうか。広義にはミステリ、犯罪小説というジャンルに収まるかなとは思うのだが、それだけではない何かがある。いいことばが思いつかないのだが、文学的重厚さとしか言いようのない何かである。

この作品は、文学としてすぐれている。人間の生き方、苦悩、挫折、そして、希望……ある境遇におかれることになった人間たちの、人生が克明に描かれる。描かれる内容は、決して明るいものではない。ミステリであるから、当然のことながら事件はおこる。だが、ただその事件の謎解きに終わっていない。事件がおこった背景、その事件に巻きこまれることになった人びと、これを複数の視点を交錯させながら、重層的に描いていく。ミステリだが、読後感は暗い感じはしない。人間の未来への希望を感じさせるつくりになっている。これは巧みである。

ちょっと分量のある作品である。読むのに少し時間がかかった。だいたい一つの章を読むのに一日というペースで読んだだろうか。その間に、学校の授業があったりした。あるいは、一気に読み切ってしまったら、より感銘が深かった作品であるのかもしれないとも思う。

ともあれ、この作品が、ミステリのベストに選ばれるのは納得である。

2022年12月24日記