『湖の男』アーナルデュル・インドリダソン2018-03-17

2018-03-17 當山日出夫(とうやまひでお)

湖の男

アーナルデュル・インドリダソン.柳沢由実子(訳).『湖の男』.東京創元社.2017
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010706

『湿地』『緑衣の女』『声』と読んできて、この本も読んでみたいと思った。週間文春の2017のミステリベストテンでは、海外の7位になっている。待っていれば、文庫版が出るのだろうが、読書の勢いというものがある。

舞台は、これまでのようにアイスランド。ある湖から死体が発見される。その死体には、ソ連製とおぼしき盗聴器が一緒だった。死体はいった何者なのか。エーレンデュルたちが操作を開始する。

それと平行して語られる、過去のものがたり。まだ東西冷戦の時代に東ドイツに留学した学生たちのはなし。その回想。

二つのものがたりが最後で一つになる。

この作品を読みながら、ふと気になって、著者の生まれを確認してみた。1961の生まれである。であるならば、1989年のベルリンの壁崩壊の時のことを、体験として知っている世代になる。そして、それ以前の東西冷戦の時代のことも。

この作品は、読んでいって、ある意味で、すぐにネタがわかる。東西冷戦の時代が生んだ悲劇として読むことになる。それはわかるのだが、ミステリとして、最後まで、いったい誰が何のためにという謎のおとしどころまでひっぱっていく力量は、この著者ならではのものだろう。

東西冷戦の時代、その時代を背景にして、いくつものミステリ、冒険小説、スパイ小説が書かれてきた。この作品は、スパイ小説という感じではないが、しかし、その時代背景のもとに生きてきた、また、それをひきずって冷戦終結後も生きざるをえなかった、人びとの生き方、その不幸な人生を描くことに成功しているといっていいだろう。

そしてまた、東西冷戦のまっただなかにあった、アイスランドという国のあり方と歴史を背景にして、うまく成り立っている作品でもある。この作品も、強いてミステリにする必要はなかったかとも感じる。しかし、エーレンデュルのシリーズの一つとして、現代の北欧、アイスランドの国のかかえる諸問題……主に家族の問題……を描いている。東西冷戦終結後の21世紀になったからこそ書くことのできたテーマであると思わせる。