『日本人はなぜ存在するか』與那覇潤2018-06-01

2018-06-01 當山日出夫(とうやまひでお)

日本人はなぜ存在するか

與那覇潤.『日本人はなぜ存在するか』(集英社文庫).集英社.2018 (集英社インターナショナル.2013 文庫化にあたり加筆)
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-745739-1&mode=1

以前、集英社インターナショナルから出ていたものに加筆して、文庫化したもの。

「日本人」とはどのように何なのか、どのように定義できるものなのか、という問題意識から、様々な角度から論じてある。もとは、大学での一般教養向けの講義をベースにしているらしい。

この本を読んで感じることなど書くとすると、次の二点ぐらいになるだろうか。

第一は、「日本人」とは再帰的にしか定義できないものである。つまり、そのような定義、見方で「日本人」をみているからこそ、そこにそのような姿で「日本人」が立ち現れてくるのである。このことは特に目新しい議論ではない。

だが、この当たり前のこと、ある意味では、学問、研究にとって自明なことを、わかりやすく懇切丁寧に語ってある。この意味ではきわめて貴重な仕事と言えるだろうと思う。

私も、この本を読んで、「日本国籍」という定義のもつ意味が歴史的に構築されてきたものであることに、認識を新たにするところがあった。

第二は、これは私の専門領域にひきつけて読解することになるのだが、「日本語」はどのように定義することになるのだろうか。

これについては、近年の日本語学研究は、かなり広い範囲の「日本語」をあつかうようになってきていると感じるところがある。第二言語としての日本語にかかわる研究がさかんになってきている。そのための……日本語学習のための……コーパスも作られたりしている。

また、かつての「日本語」の領域は、必ずしも日本国内に限るものではなかった。外地……朝鮮や台湾……においても「日本語」は使用されていた。そこには、国家権力による強制という側面もあったことになる。が、少なくとも、「日本語」の範囲は、近代の歴史を通じて考えてみても、自明なものではなかったことになる。このことをさらに考える必要があるだろう。

以上の二点が、読んで感じるところでもある。

読みながら付箋をつけた箇所をすこし引用しておきたい。

「この「認識」し続けることによって存在し続ける」という再帰的な共同体のあり方を分析する技法としては、1980年代以降の国民国家やナショナリズムをめぐる議論では、「物語」に注目が集まりました。すなわりここまでの本書の内容は、「私たちは、かつてこの列島で起こったことを『日本人の物語=日本史』として語ることによって、『日本』という共同体を日々(再)創造している」というふうに、まとめなおすこともできます。」(p.141)

ところで、なぜ、『万葉集』や『源氏物語』『古今和歌集』は、日本の「古典」であるのであろうか。近年のカルチュラル・スタディーズの立場から、いくつかの研究があることは承知しているつもりではある。が、ここは、改めて、考え直すべきことだろう。

それは、そのような作品を「古典」として読んで来た「歴史」があるから、ということでもある。それは、中世の『源氏物語』の古注などにまでさかのぼるかもしれない。いや、そこまでいかなくても、近世の国学者たちの研究、そして、それをうけて成立した、近代の国文学という学問、その営みの歴史としてある、ということはいえそうである。そして、それをうけた形で、今日の、大学の教育と研究の枠組み……日本文学科という学科があり、各種の学会がある……によって、日々、再確認、再創造していることになる。

この本は、少なくとも、日本史、日本文学、日本語、というような研究領域にたずさわる人間が、一度は、ふりかえって立ち止まって考えておくべき、貴重な論点を提示していると思う。あるいは、さらには、東洋学とか、西欧史のような分野にも拡張して考えるべきこともふくんでいるだろう。

なお、與那覇潤の本では、

與那覇潤.『中国化する日本 増補版』(文春文庫).文藝春秋.2014

は手にして読みかけたのだが……そのあまりに短絡的論理、思いつきとこじつけとしか思えない議論に閉口して、途中でやめてしまった。これは歴史書としてはどうかと思うのだが、しかし『日本人はなぜ存在するのか』の方は、いい本だと思う。

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