『天皇の世紀』2010-03-13

2010-03-13 當山日出夫

大佛次郎の『天皇の世紀』(文春文庫版)を、読み始めている。この前で、朝日新聞社の普及版も持っているのだが、文庫本の方が読みやすい。それに、まあ、いまからならなんとか毎月1冊ぐらいはどうになかなるだろうということもある。すでに、三巻が出ている。いま、ようやく二冊目にはいったあたり。

時間が違うのである。WEBなど、あるは、リアルの生活のなかでの時間と、その流れるはやさがちがう。

ものがたりは、幕末の御所の様子の描写からはじまる。中世のたたずまいをのこし、ただひたすら、むかしのままを維持することを自己目的化した、時間のとまったような空間とそこに生活するひとびとの様子が、ことこまかに描かれる。

江戸の時代においてさえ、時間のながれが、外の世界と違っているような場所。それを、今の時代に、稠密に描写していく。この時間のながれの落差が、この作品の魅力のひとつと言っていいだろう。

手軽に、明治維新とは……となれば、新書本で歴史をひもとけば、それなりの知識は得られる。だが、この物語(といっていいだろう)から得られるのは、明治維新もまた長大な時間の流れのなかでおこったことなのだ、という当たり前の感覚である。

えてして、手軽に答えを本に見いだそうとする現代、ただ、ひたすら、時間の流れを、その時間にそって記述している、この史伝というべきものがたりは、それだけで、屹立した価値がある。

當山日出夫(とうやまひでお)