NHKスペシャル取材班・北博昭『戦場の軍法会議』2016-08-20


2016-08-20 當山日出夫

NHKスペシャル取材班・北博昭.『戦場の軍法会議-日本兵ははぜ処刑されたのか-』(新潮文庫).新潮社.2016 (原著、NHK出版.2013)
http://www.shinchosha.co.jp/book/128378/

新潮文庫で出たので、買って読んでみた本。はっきりいって、この本を読むまで軍法会議というものについて確たる認識がなかった。軍に法務官という職種があったことも。

今年の夏もまた政治家の靖国神社参拝をめぐって、いろいろとあったようである。私は、基本的に、英霊祭祀ということを否定するものではない。だが、そのときには、誰をどのような資格で祭祀の対象とするかについて、根本的な反省がなければならないと思っている。ただ、(今の)靖国神社に祀られている人たち(と言っておく)だけが、英霊ではない……他に、考える余地はないのか、常に、謙虚にかえりみなければならないと思っている。

その意味で、この本は、いろいろ考えさせられるところがあった。

読後感を四点ほどあげておく。

第一には、やはり軍法会議というものの存在とその組織・仕組についての認識である。たぶん、大部分の読者は、おそらく私同様、軍法会議について、漠然としたイメージしか持っていないのではないか。それをこの本は、まず、日本軍における軍法会議というものの存在、そのシステムから、説き起こして明らかにしてくれている。

第二には、その軍法会議が、敗色濃厚となった、外地(戦地)でも行われていたことである。兵士、軍人も、戦地に赴いたことは当然としても、そこに、法務官も行って、軍法会議にたずさわっていたこと。これはこれとして、戦史にのこすべき事実であろうと思う。

第三には、その軍法会議は、かならずしも正当なものばかりではなかったということ。戦地、しかも、負けているという状況のなか、まともな軍法会議の判断がなされたとはいいがたい事例があった。いや、軍法会議がひらかれればまだいい方であって、それすらもなしに処分された事案が多々あったということ。

第四には、これが最も重要な点だと思うのだが、そのような軍法会議で裁かれた人、さらには、軍法会議さえなしに処分の対象となった人、このような人の名誉回復が、いまだになされていないということ。

以上の四点、簡略にまとめれば、この本を読んでの感想になる。

私は、近代の国民国家を肯定する立場にたつ。その上で、国家としての英霊祭祀はなされるべきものと考える。だが、そのとき、誰を、どのような資格において、どのような立場から、という点について、常に謙虚な反省が求められると思っている。

この本で事例が紹介されているような不当な軍法会議で裁かれた人の名誉回復がなされていないような状況にあって、安易に英霊祭祀などというべきではないと思うのである。現時点で間に合う限り、資料・史料を探し、公開し、保存すること、このことが何よりも必要なことだろう。そのうえで、しかるべく、名誉回復の手続きがなされなければならない。

不当な軍法会議において、また、軍法会議さえ経ずに、汚名をきせられたままの人がどれほどいることか、まずは、このことに思いをいたさねばならないであろう。

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