爆走風塵「中国・トラックドライバー ロシア1万キロをゆく」2026-04-23

2026年4月23日 當山日出夫

爆走風塵「中国・トラックドライバー ロシア1万キロをゆく」

これは、NHKスペシャル「臨界世界 1万キロに人生かけて 中国ドライバー ロシアへ」で放送していたものの拡大版である。2026年3月22日放送。いや、オリジナルが「爆走風塵」の方で、「臨界世界」がその再利用版ということかとも思うが。

このときに見て思ったことは、すでに書いた。それは、後にコピーしておくとして、まず「爆走風塵」を見て追加として思ったことを書いておく。

今の中国の資本主義の目指しているところは、どこに向かうのだろうか。ロシアとウクライナとの戦争を契機として、ロシアとのつながりを強めている。それには、海運のみならず、陸上輸送で、中国とロシアがつながることを意味する。ユーラシア大陸を、東西につなぐ輸送ルートとして、中国は一帯一路構想をかかげていたが、それは、頓挫した(ということではないにしても)あまりうまくいっているという話しは聞かなくなった。その代わりに、ロシアルートが出来たことになる。モスクワまでのルートがあるなら、そこからさらに東欧、西欧に向かうことになる。

また、北極海の氷が地球温暖化でとけて航路ができることが予想されるが、北極海については、その覇権をかけて、ロシアとNATO、それから、アメリカが、争っている。それに、中国も加わっている。北極海は、自分のところの海であると言う。(かなり強引かと思うが、北極海航路は、中国にとっても、ヨーロッパへのルートであると同時に、大西洋に影響力を及ぼすことにもなる。)

こういう大きな中国の資本主義、むろん軍事もふくめて、この世界へむけての膨張主義の末端をささえているのが、番組に出てきたようなトラックドライバーであるというべきだろう。物流をささえる人びとでありながら、労働力市場では、買いたたかれる一番の弱者でもある。

中国の昆明からモスクワまで、ほぼ半月ほどで、物資を輸送して、また、帰ってくる(これも、半月ほどはかかるだろう)。

「臨界世界」で省略していたことだが、モスクワからの帰りは、荷物を積んでいたようである。トラック輸送については、空荷で走らせるほど不効率なことはない。中国の輸送業者と、ロシアの業者との、密接な連絡がとれていないとできないことである。そして、それが、今の中国とロシアとの間では出来ている。

輸送費を安くするために、トラック運転手の仕事は過酷になるばかりである。仕事がきつくなるだけではなく、ロシアの警察官に渡す賄賂も、おそらくはドライバーの自腹で調達してということだろうと思うが、これも、これから先どうなるか分からない。賄賂は常習化し、より高額なものを要求するようになるだろう。

この回は、3人のドライバーで2台のトラックということだったが、これは、現在の日本のドライバーの労働の規則からすれば、絶対に違法である。さらには、2人のドライバーで、1台のトラックを24時間走らせろとなるのは、時間の問題だろう。すでにそうなっていてもおかしくない。(ただ、トラックが、そういう過酷な運転に耐えるかどうかは、また、別の問題であるとしても、可能な限り稼動効率を上げることは、必然的な要求としてあるにちがいない。)

こういうトラックドライバーのような人たちが、アメリカでいうところの「ラストベルトの労働者」となったとき、中国はどうなるだろうか。中国の経済をささえてきたのは、戸籍上の農民である人たちかと思われるのだが、こういう人たちが、自分たちのことを、忘れられている、見捨てられている、と感じ始めたとき、はたして中国という国は、その形を保ち続けることができるだろうか。年をとってきても社会保障の制度が整備されていないという問題点は、指摘されている。

このシリーズの張さんの場合、息子がいて、進学の夢がある。学歴による社会階層の上昇の希望がある。だが、これが、いつまでもつことになるか、中国社会の行く末はあまり楽観視できないかもしれない。

以下、以前に「臨界世界」を見たときに書いたことを、転記しておく。

やまもも書斎記 2026年3月26日
NHKスペシャル「臨界世界 1万キロに人生かけて 中国ドライバー ロシアへ」

====================================

NHKスペシャル「臨界世界 1万キロに人生かけて 中国ドライバー ロシアへ」 ―2026-03-26
2026年3月26日 當山日出夫

NHKスペシャル「臨界世界 1万キロに人生かけて 中国ドライバー ロシアへ」

見始めて思ったのは、このおじさんには見覚えがある。たしか、「爆走風塵」で、ラオスのバナナをチベットまで運んだトラックの運転手……そう思って、X(Twitter)を検索してみると、同じことを思った人はたくさんいたようだ。

見ながら思ったことはいっぱいある。

まず、中国の南の方から、清涼飲料をロシアのモスクワまでトラックで輸送するということの合理性である。コンテナで船で運んだ方がはるかに安いと思うのだが、そうではないらしい。燃料コストなど考えれば、トラック輸送の方が高いと思われるのだけれど。(これが、将来、北極海航路が、実用化されるとどうなるだろうか、ということも考えたことの一つである。中国が北極海の覇権を狙っていることも視野にいれて考えることになる。)

以前の「爆走風塵」の終わりのとき、運転手の男性は、チベットからさらに中央アジアやパキスタンなどに行くことを語っていたかと覚えているのだが、それが、ロシアのモスクワまで仕事で行くことになるとは、思わなかった。中国の一帯一路構想の中で生きるトラックドライバーのことを思ったものだった。これも、世界情勢の変化である。

まずは、中国からロシアのモスクワまで、かなりいい道路が整備されているということも、大事なことだろう。番組の中で出てきた道路は、チベットとは比べものにならない、きちんと舗装された道路である。(何度も書いているかと思うが、道路は、生活物資もはこべるが、軍事物資もはこべる。そして、ウクライナによるクモの巣作戦も可能になった。)

中国からロシアの国境を越えるのに、何日も待たなければならないというのは、どういう事情なのだろう。国境管理が厳重だからということでもないようである。だからといって、国境の役人に渡す賄賂で手間取っているとしうこともなさそうである。いったいどうなのだろうか。

ロシアでも極東エリアは、ウクライナの戦争の犠牲は大きい。いわゆる経済的徴兵ということが実感できる。(こういうことは、小泉悠などの書いていることでもある。)

途中の道路で、追い越そうとして正面衝突した事故車のあとはすさまじい。こういう事故があっても、トラックドライバーの仕事は、それをやるしかない。

燃料は闇で安いのを入れる。これは、中国においても同様のことが行われている。こういうところで節約するしかない。(ロシア国内のガソリンや軽油の事情は、どうなっているのだろうか。)

道中の町でも、中国製品があふれている。中国とロシアの経済的な結びつきの強さを実感することになる。

食事は、インスタントラーメンを作って、道ばたの野草を入れている。いまどき、野草を食事にする人は、日本だとごく一部のマニアックな人はいるかもしれないが、これが日常の食事というのは、おどろく。ドライブインのレストランで食事をする余裕など、まったくない。過酷な労働のしわ寄せは、ドライバーが背負わされることになっている。

トラックドライバーの労働の過酷さに比べると、荷主の社長さんは、贅沢である。これが、今の中国の、経済格差ということなのだろう。

中国東北地方出身のドライバーの男性は、洪水で家を流されて、自前のトラックも失って、借金が700万円ほどあるという。日本で、700万円の借金は少なくない金額であるが、それで、どうにもならなくなるというほどのことは、めったにないだろう。ロシアに行く仕事のために、保証金を11万円用意しなければならないのだが、それを貸してくれる親戚などがいない。結局、進学を目指して勉強している息子が調達してくれた。

中国の人びとは、一族のまとまりが強く、助け合うということがあったかというイメージを持っていたのだが、まったくそうではない。金の切れ目は縁の切れ目。落ち目になった人を助けようという、相互扶助の精神は持っていないようだ。

洪水で家が無くなったような場合、公的な援助とか、今の中国ではどうなっているのだろう。(日本のように仮設住宅を公的に用意してくれる、ということではないのだろう。)

だが、この男性の家族を思う思いは強く、何よりも、子どもの進学に夢をかけている。学歴信仰といえばそれまでなのだが、今の中国では、まだかろうじて生き残っているということでいいのだろうか。

ロシアの警察官は、賄賂でどうにでもなる。いや、どうどうと賄賂を要求するために、交通違反をとりしまる。その賄賂といっても、中国のお茶とか、煙草とかである。とてもセコいというか、みみっちいというか、庶民的というか、現実的というか。これを用意して行くのも、ドライバーの自腹ということだと思うが、ロシアの警察官も、大変だよなあ、と思ってしまう。腐敗といえば腐敗であり、これで、ロシアという国家は大丈夫なのだろうかとは思うが。

ところで、この番組を作ったのは、テムジンである。中国関係では、いい番組を作る。おそらく、現地の事情に通じたスタッフがいるのだろうと思う。(さらにいえば、中国の政府要人へのコネもあるのかとも想像するが。)

中国でも、ロシアでも、このような番組の取材は、スパイ行為と見なされる危険と隣り合わせだろうと思う。中国やロシアの当局の許しのある範囲で作った番組と見るべきか、あるいは、今の中国やロシアの規制が緩んできたから作れた番組なのか、さあ、どうなのだろうか。

NHKのBSの「ワールド・トラックロード~俺の助手席に乗らないか~」のシリーズは、私の好きな番組で、BGMを聞きながらのんびりと眺めているのがいいのだが、しかし、この中国からロシアの旅は、ゆっくりとテレビの前でリラックスして見るという気にはなれなかった。

2026年3月23日記

====================================

2026年4月21日記

コメント

_ めがね ― 2026-08-30 16時15分20秒

何か回を重ねる程に主人公のドライバーの喜怒哀楽があざとくなってる気がする
そもそも彼はどれ位のギャラを受け取ってるんだろう 
少なくとも続編ではかなりのギャラが発生してるのでは? 
そうなると新しい会社に入る時の保証金を身内に借りるとか 
なんか嘘くさく見えて仕方ない

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2026/04/23/9850287/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。